ステーブルコインとCBDCの共存戦略 ― 民間と中央が描く“二重構造の通貨システム”

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1. 「デジタル通貨の時代」本格化へ

2025年、日本でも円建てステーブルコインの発行が現実のものとなりつつあります。
JPYC社が金融庁登録を受けて年内にも発行を予定し、さらに三菱UFJ銀行などの3メガバンクも共同発行を計画しています。
一方、日本銀行(BoJ)も中央銀行デジタル通貨(CBDC)の制度設計を検討中です。

つまり今後、

「民間が発行するステーブルコイン」
+「中央銀行が発行するデジタル円(CBDC)」
という二重構造のデジタル通貨システムが同時に存在する可能性があります。

この構造は、単なる技術の話ではなく、金融システムの根幹(通貨供給・信用創造・決済インフラ)を再設計する議論に直結します。


2. 民間ステーブルコイン ― 銀行預金の「補完」と「代替」

ステーブルコインとは、円やドルなどの法定通貨の価値に連動するデジタル資産であり、ネット上で瞬時に送金・決済が可能な通貨です。
発行者は、価値を担保するために同額の預金・国債などを裏付け資産として保有します。

日銀・氷見野良三副総裁は10月21日の講演で、

「ステーブルコインは銀行預金の役割を部分的に代替し、国際決済の主要プレーヤーとなる可能性がある」
と指摘しました。

▶ メリット

  • 即時決済・24時間稼働(銀行間送金の制約を超える)
  • 海外送金コストの大幅削減
  • スマートコントラクト(自動契約処理)への応用

▶ リスク

  • 発行者の信用リスク(裏付け資産の管理)
  • マネーロンダリング・不正送金への悪用
  • 預金流出による銀行経営への影響

特に、銀行預金がステーブルコインに移ると信用創造機能が縮小し、金融政策の波及経路に影響する懸念があります。


3. CBDC(中央銀行デジタル通貨) ― 「信頼の最後の砦」

CBDCは、中央銀行が直接発行する法定通貨のデジタル版です。
現金と同じく「信用リスクゼロ」であり、中央銀行が責任をもって発行・管理します。

欧州中央銀行(ECB)は2025年以降の導入を視野に「デジタルユーロ」構想を進めており、

  • 個人の保有上限:3,000ユーロ(約52万円)
  • 目的:預金流出リスクの抑制と利用範囲の限定
    という制度設計案を公表しました。

日本銀行も、実証段階を経て「パイロット実験」フェーズに入り、
金融機関・決済事業者と連携したCBDCの利用形態を模索しています。

CBDCの導入目的は次の3点に整理できます。

区分目的民間通貨との関係
①決済の安全性確保民間デジタル通貨の乱立による混乱防止「最終的な清算通貨」としてのCBDC
②金融包摂現金アクセスが困難な地域への対応デジタル現金としての機能
③通貨主権の維持海外発行ステーブルコイン(USDC等)への対抗公的デジタル通貨の意義強化

4. 並存モデル ― 「中央が基盤、民間が実装」

多くの国では、「CBDCが民間を排除する」のではなく、
「CBDCを基盤に民間がイノベーションを担う」構造を志向しています。

日本でも想定されるのは、次のような「並存型の分業モデル」です。

[中央銀行]── CBDC(基盤インフラ)
  ↓
[銀行・フィンテック]── ステーブルコイン(利用・流通・決済)
  ↓
[企業・個人]── 実生活での決済・送金・貯蓄

このモデルの特徴は、民間の利便性と中央の信頼性の共存です。
CBDCは「最終決済の裏付け資産」としての役割を果たし、
ステーブルコインは「ユーザー体験・取引機能・API連携」を担います。

結果として、通貨システムが“中央+民間”の二層構造に進化するのです。


5. 実務・制度上の論点

(1)会計・税務上の位置づけ

CBDCは「現金預金」として扱われる可能性が高い一方、
ステーブルコインは裏付け資産の性質に応じて「預り金」または「デジタル証券」的な性格を持ちます。
会計区分と税務上の評価方法(取得価額主義 or 時価評価)は今後の重要論点です。

(2)AML/CFT・個人情報保護

CBDCではトレーサビリティが確保される一方で、
「完全匿名」ではなく「限定的匿名」が検討されています。
ステーブルコインも含め、個人情報とプライバシー保護のバランス設計が不可欠です。

(3)金融機関の役割変化

銀行は、

  • ステーブルコイン発行者としての資金管理業務
  • CBDC口座の仲介・KYC機能
    を担う可能性があります。
    つまり、銀行の役割が「預金管理」から「デジタル通貨エコシステムの運営」へとシフトするのです。

6. FP・税理士が押さえるべき視点

今後、顧客や企業の資産管理において、
「仮想通貨・ステーブルコイン・CBDC」が共存する前提が不可避になります。

専門家としては次の3点を意識する必要があります。

  1. 資産区分と税務処理の整理
     (暗号資産・預金・電子マネーの区別を説明できること)
  2. 送金・決済インフラの進化への理解
     (企業間取引・海外送金・給与支払いの電子化)
  3. 顧客資産保全・相続設計への対応
     (デジタルウォレットの承継・管理責任・課税時期の判定)

これらは、今後の税理士・FP業務における「新しい常識」になるでしょう。


7. 結論 ― 「通貨の再構築」は始まっている

銀行に仮想通貨が解禁され、ステーブルコインが拡大し、CBDCが実用化される。
この流れは、単なる金融技術の革新ではなく、

“お金とは何か”という定義そのものを問い直す制度改革
です。

民間の柔軟性と、中央銀行の信用。
この二つが共存する新しい通貨秩序のもとで、
金融の専門家は「制度」と「リスク」と「倫理」を横断的に理解する力が求められます。


出典・参考

  • 「仮想通貨、銀行系に解禁」日本経済新聞(2025年10月22日)
  • 「ステーブルコイン『銀行預金を一部代替も』」日本経済新聞(2025年10月22日)
  • 日本銀行・ECB・FRB各種公表資料
  • 金融庁「金融審議会 作業部会」資料(2025年)
  • 日本暗号資産取引業協会(JVCEA)統計資料

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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