スタートアップ育成「脱・日本流」へ

政策

――海外投資を呼び込むための新ルールが動き出す

「ユニコーン企業」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。企業価値が10億ドル(約1500億円)を超える未上場企業のことです。アメリカには600社以上ありますが、日本では数社しかありません。
なぜ日本からはなかなか大きなスタートアップが育たないのか。その背景には、日本独特の投資慣行があると指摘されています。

代表的なのが、スタートアップと投資家(ベンチャーキャピタル=VC)が結ぶ契約で「IPO(株式上場)に向けて最大限努力する」という条項です。これがあるため、成長途上の企業でも無理に早期上場を迫られ、結果として「小粒上場」と呼ばれる規模の小さい上場が増えてしまう傾向がありました。

1. 経産省の新ガイドラインとは

こうした状況を踏まえ、経済産業省は2025年9月末までに投資契約に関するガイドラインを改定します。ポイントは以下のとおりです。

  • IPO一択ではなく、M&Aやセカンダリー(未上場株の売買)も回収手段に含める
  • 海外では一般的な「IPO努力義務」を外す
  • 投資契約違反時にVCが投資額以上を返還請求できる日本独自のルールを廃止

これらの改定は、海外投資家が日本市場に参入しやすくするための「国際標準化」といえます。

2. なぜ国際標準が必要なのか

海外の投資家から見ると、日本の契約慣行は「リスクが高い」と映ります。とくに「創業者個人が失敗の責任を背負わされ、再チャレンジが難しい」という点は、挑戦を促すエコシステムづくりに逆行していると批判されてきました。

一方、アメリカではIPOもM&Aも柔軟に選択できます。大企業がスタートアップを買収する動きも盛んで、これが新しい挑戦を支えるサイクルにつながっています。

3. 数字が示す日本と米国の差

  • 日本のスタートアップ資金調達額(2024年):約7,793億円
  • 米国のスタートアップ投資額(同年):約30兆円

桁違いの差が存在します。日本でも技術力のあるスタートアップは数多く生まれていますが、投資環境が整っていないために海外投資家が二の足を踏み、結果的に成長のチャンスを逃してきたといえます。

4. 今回の改定がもたらすもの

今回の新ガイドラインは法的拘束力こそありませんが、「日本特有の慣例を見直す」という強いメッセージを持っています。

これにより期待できる効果は――

  • 海外投資家からの資金流入が増える
  • M&Aを含めた多様な出口戦略が可能になる
  • 起業家が失敗しても再挑戦しやすくなる

つまり、日本のスタートアップをめぐる投資環境が、よりチャレンジしやすく、成長しやすい方向へシフトする可能性があります。

5. 一般の私たちにとっての意味

一見すると「起業家や投資家だけの話」に思えますが、実は私たちの生活とも無関係ではありません。

  • スタートアップが育てば、新しいサービスや便利な技術が私たちの暮らしに届く
  • 海外資金の流入は経済全体の活性化につながり、雇用や所得にも波及する
  • 失敗しても再挑戦できる環境は、社会全体の「挑戦文化」を育む

こう考えると、今回のルール改定は「日本社会がもっと挑戦に寛容になる一歩」とも言えそうです。


まとめ

経産省が動き出した「脱・日本流」の新ルールは、スタートアップ育成の転機になるかもしれません。海外投資家にとっても、起業家にとっても、日本市場が「挑戦できる場」として見直されることを期待したいところです。

(参考:日本経済新聞 2025年9月18日 朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました