2025年10月から、75歳以上の一部の方にとって医療費の自己負担が増える制度変更がありました。今回は、この背景や仕組みを整理しながら、「なぜ今、見直しが行われているのか」をわかりやすく解説します。
公的医療保険の基本構造
日本の医療保険制度は「国民皆保険」といわれ、すべての人が何らかの公的医療保険に加入する仕組みになっています。
加入する保険は、年齢や職業によって異なります。
- 会社員とその家族:健康保険(健保)に加入
┗ 大企業などは「健康保険組合(健保組合)」、中小企業などは「全国健康保険協会(協会けんぽ)」 - 自営業者・年金生活者など:国民健康保険(国保)
┗ 市町村が運営し、業種ごとの「国民健康保険組合」もあり - 公務員・私立学校教職員など:共済保険
- 船員など特殊な職業:船員保険
- 75歳以上の方:後期高齢者医療制度
つまり、75歳になると、自動的に「後期高齢者医療制度」に移行します。
健保と国保の違い
健康保険(健保)と国民健康保険(国保)の違いは、「被扶養者」という概念の有無です。
健保や共済には、年収が一定以下の配偶者や子どもが「被扶養者」として加入でき、保険料の追加負担がありません。
一方、国保には被扶養者制度がなく、家族全員が個別に保険料を支払います。
保険料率は、健保では都道府県や組合ごとに設定されており、東京都の協会けんぽでは介護保険料を含めて標準報酬月額の約11.5%。そのうち会社が半分を負担します。
国保は自治体ごとに保険料率が異なり、地域差があるのが特徴です。
医療費の自己負担割合 ― 年齢でどう変わる?
医療機関の窓口で支払う「自己負担割合」は、年齢と所得で決まります。
| 年齢区分 | 自己負担割合 | 備考 |
|---|---|---|
| 70歳未満 | 3割 | 現役世代 |
| 70~74歳 | 原則2割 | 所得により1~3割 |
| 75歳以上 | 原則1割 | 所得により2~3割 |
2022年10月の改正では、75歳以上で年金収入などが一定額を超える人の負担が、1割→2割に引き上げられました。
これは、高齢化による医療費増加を抑えるための見直しです。
2025年10月からの変更点 ― 経過措置の終了
2022年の制度改正で2割負担になった人については、急激な負担増を避けるための「経過措置」がありました。
たとえば、1割負担から2割負担になると、月1万円の医療費が2万円に増える計算になります。
このとき、増加分が月3,000円を超えないように上限を設ける仕組みが設けられていたのです。
しかし、この経過措置が2025年9月末で終了。10月からは、本来の自己負担割合が全面的に適用されます。
厚生労働省によると、この影響を受けるのは75歳以上の約15%(310万人)。
1人あたりの年間負担増は平均で約9,000円と見込まれています。
負担増の背景 ― 支え合いのバランス
医療費の財源構成を見ると、後期高齢者医療制度は次のように支えられています。
- 本人の保険料:10%
- 国・地方自治体の税金:50%
- 現役世代の医療保険からの支援金:40%
つまり、現役世代が全体の4割を負担しており、高齢者人口の増加とともに現役世代の負担が重くなっているのです。
このため、「支えられる側から支える側へ」と一部の高齢者に負担を求める見直しが進められています。
これからの医療制度をどう考えるか
2025年は、戦後の「団塊の世代」が全員75歳以上になる節目の年です。
医療費の公平な分担をどう保つか、そして高齢者の生活をどう守るかは、日本社会全体の大きな課題となっています。
制度改正は「負担増」として語られがちですが、社会全体の持続可能性を保つための調整でもあります。
私たち一人ひとりが、制度の仕組みを理解し、将来の医療・介護のあり方を考えることが求められています。
参考・出典
『マネー相談 黄金堂パーラー シニア世代の公的医療保険(上)加入先』
出典:日本経済新聞(2025年10月22日 夕刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

