定年退職を迎えるとき、多くの人が戸惑うのが「退職後の健康保険をどうするか」という問題です。現役時代は勤務先の健康保険組合や協会けんぽに自動的に加入していましたが、退職後は自分で加入先を選ぶ必要が生じます。選択肢を理解しておくことで、無保険の期間を防ぎ、保険料の負担を適切に管理できます。
1. 定年後の働き方で変わる加入先
定年後の就業率は上昇を続けています。総務省の労働力調査によると、60~64歳の就業率は2014年に60.7%でしたが、2024年には74.3%に達しました。定年後も働くかどうかによって、加入する医療保険制度が異なります。
- 同じ会社で再雇用される場合:従来通り勤務先の健康保険に加入。
- 別の会社へフルタイム再就職する場合:新しい勤務先の健康保険に加入。
- パート・アルバイトとして働く場合:週20時間以上などの条件を満たせば、勤務先の健保に加入可能。
なお、健康保険に加入すると同時に厚生年金への加入も義務づけられるため、将来の年金額を増やすメリットもあります。
2. 働かない・フリーランスの場合の3つの選択肢
定年後に働かない、あるいは自営業やフリーランスとして働く場合、医療保険の選択肢は主に3つです。
- 健康保険の「任意継続被保険者制度」を利用する
退職した会社の健康保険に、最長2年間継続加入できる制度です。加入期間が2カ月以上あれば利用可能で、定年退職や病気による退職も対象になります。
ただし、会社負担分がなくなるため、保険料は現役時代の約2倍になることがあります。一方で、配偶者などの被扶養者は引き続き扶養として保険料負担なしで加入でき、また健保独自の「付加給付」も継続して受けられる場合があります。 - 国民健康保険(国保)に加入する
健保を継続しない場合は、居住地の市区町村で国保に加入します。保険料は前年の所得に基づいて算定され、世帯全員分を支払う必要があります。市区町村によって保険料や計算方法が異なるため、窓口やウェブサイトで試算してもらうことが大切です。 - 配偶者など家族の被扶養者になる
家族が勤務先の健保に加入している場合、その被扶養者となる方法もあります。扶養の認定要件(年収130万円未満など)を満たす必要がありますが、保険料負担が発生しない点が大きなメリットです。
3. 任意継続と国保、どちらが有利か
一般的に、退職直後は任意継続のほうが有利なケースが多いとされます。たとえば、ファイナンシャルプランナーの深田晶恵氏の試算によれば、60歳で退職し、退職直前の年収が800万円の人の場合、
- 協会けんぽ(東京都)の任意継続保険料:月約3万1000円(介護保険料除く)
- 東京都江戸川区の国民健康保険料(世帯2人・配偶者所得なし):月約6万6000円
と、国保のほうが2倍以上高くなるケースがあります。
ただし、退職翌年以降は所得が減少するため、国保の保険料が下がる一方で、任意継続の保険料は一定のままです。結果として、2年目以降は国保のほうが安くなることもあります。任意継続から途中で国保に切り替えることも可能なため、複数年でのシミュレーションが重要です。
結論
退職後の医療保険の選択は、「働き方」「所得」「家族構成」によって最適解が変わります。任意継続と国保のどちらが得かは一概には言えず、加入先や自治体に相談して保険料を具体的に試算してもらうのが確実です。
無保険の期間をつくらないよう、退職前から早めに手続きを確認しておきましょう。
出典
日本経済新聞「マネー相談 シニア世代の公的医療保険(下)退職時」
(2025年10月29日付)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

