多国籍企業に最低15%の法人課税を求める「グローバル・ミニマム課税」は、国際課税の歴史の中でも画期的な取り組みと位置づけられてきました。
しかし2026年1月、同制度をめぐり、米国に本社を置く多国籍企業などを事実上適用除外とする国際合意が成立し、日本政府もこれを踏まえた制度見直しを閣議決定しています。
本稿では、この決定の内容を整理したうえで、「グローバル・ミニマム課税は後退したのか」「日本企業や実務にどのような影響があるのか」という点について考察します。
グローバル・ミニマム課税とは何か
グローバル・ミニマム課税は、多国籍企業が各国で極端に低い税率で課税されることを防ぐため、国・地域ごとに最低15%の実効税率を確保する仕組みです。
これは、OECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」における第2の柱(Pillar Two)として、約140カ国・地域が合意した国際ルールです。
日本でもすでに法制化され、一定規模以上の多国籍企業グループを対象に、グループ国際最低課税額を計算・課税する制度が導入されていました。
米国を適用外とする国際合意の成立
今回のポイントは、グローバル・ミニマム課税と「独自のミニマム課税制度」を有する国、特に米国との関係整理です。
米国は、国際合意とは別に自国制度として最低課税の仕組みを持っており、これを理由にグローバル・ミニマム課税への全面的な参加には慎重な姿勢を示してきました。
2026年1月5日、この点について国際的な合意が成立し、「一定の要件を満たす国の制度とは共存を認める」という整理がなされました。
日本の税制改正で何が変わるのか
日本政府はこの国際合意を受け、2026年度税制改正で制度の見直しを行うことを閣議決定しました。
具体的には、以下のような措置が講じられる予定です。
- 最終親会社が、財務大臣が指定する「一定の要件を満たす国または地域」に所在する場合
- 当該多国籍企業グループに係る
- グループ国際最低課税額
- 共同支配会社等に係るグループ国際最低課税額
をゼロとする適用免除基準を新設
この改正は、2026年1月1日以後に開始する対象会計年度から適用される予定です。
この見直しは「後退」なのか
一見すると、グローバル・ミニマム課税の理念が揺らいだようにも見えます。
しかし、今回の見直しは制度の放棄ではなく、「国際課税システムの安定化」を優先した現実的な調整と評価するのが妥当でしょう。
米国のような経済規模の大きい国が制度から距離を置いたままでは、各国が独自対応を取らざるを得ず、かえって国際課税の混乱を招くおそれがあります。
その意味で、完全な一律適用よりも、制度間の共存を認める選択が取られたといえます。
結論
今回の閣議決定は、グローバル・ミニマム課税の理念を否定するものではありません。
むしろ、国際合意を形式的に維持するのではなく、主要国の制度との整合性を確保し、実務上の混乱を避けるための「調整局面」に入ったことを示しています。
今後は、
- 対象となる国・地域の指定
- 実務上の判定基準
- 日本企業への影響の有無
といった点が重要になります。
国際課税は一度決まれば終わりではなく、政治・経済の現実を反映しながら変化し続ける分野であることを、改めて意識しておく必要があるでしょう。
参考
・税のしるべ 2026年2月2日
・OECD/G20 BEPS包摂的枠組みに関する公表資料
・令和8年度税制改正に関する政府公表資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

