ガソリン税「旧暫定税率」12月末に廃止へ ― 年1.5兆円減税のインパクトと今後の課題

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ガソリン価格の根幹を支えてきた「旧暫定税率」が、ついに年内で廃止される見通しとなりました。与野党6党が合意に達し、12月31日に25.1円分の上乗せ部分が撤廃されます。高市政権が掲げる物価高対策の柱とされますが、その背後には「兆円単位の財源問題」と「脱炭素との逆行」という大きな課題が残ります。

1. 与野党6党が合意 ― 年内に25.1円分を撤廃

自民、立憲民主、日本維新の会、国民民主、公明、共産の6党は10月31日、国会内で協議を重ね、ガソリン税の旧暫定税率を2025年12月31日に廃止することで合意しました。
1974年に道路整備の財源として導入された旧暫定税率(1リットルあたり25.1円)は、2009年に一般財源化された後も実質的には維持されてきました。廃止が実現すれば、約半世紀ぶりの抜本的見直しとなります。

廃止による減税効果はガソリン・軽油あわせて年間1.5兆円規模。ただし、価格が年末に急激に下がることを避けるため、政府は既存の補助金を段階的に拡充します。
現行の1リットル10円の補助金を、11月13日から2週間ごとに5円ずつ積み増し、12月11日には25.1円分と同等の水準に到達させます。こうして年末に向けて徐々に価格を引き下げ、円滑な移行を狙います。

一方で、軽油の旧暫定税率は2026年4月1日に廃止される予定で、こちらも補助金を段階的に引き上げる方針が示されました。


2. 家計への恩恵と物価押し下げ効果

第一生命経済研究所の試算では、ガソリン税の廃止によって2人以上世帯の年間負担が平均で約1万1900円減少するとされています。自動車を保有している世帯ではさらに恩恵が大きく、物価上昇抑制効果も消費者物価指数を0.2ポイント押し下げると見込まれています。

ただし、この効果は短期的です。補助金を含めて価格を抑制している現状からの延長にすぎず、財源の裏付けがなければ持続可能性に疑問が残ります。


3. 「財源確保」の先送りと“責任ある積極財政”の試練

与野党の協議では、廃止時期だけでなく、代替財源の確保をめぐっても議論が紛糾しました。自民党は政策減税(租税特別措置)の見直しや金融所得課税の強化を候補に挙げていましたが、最終的な合意文書では具体策を明記せず、「25年末までに結論」と先送りされました。

当初、自動車関係の課税強化を通じて補填する案もありましたが、国民民主党などが「自動車ユーザーから取るのは本末転倒」と反発し、文言が削除されています。
道路インフラ保全のための新たな財源も検討されていますが、こちらも「引き続き検討」との表現にとどまりました。

結果として、政権が掲げる「責任ある積極財政」は、減税による人気取りと表裏一体の危うさをはらんでいます。高校授業料の無償化拡大など他の大型政策も同時進行しており、財政の持続性をどう担保するかが今後の焦点です。


4. 脱炭素への逆行懸念と国際的視線

環境面でも課題があります。国立環境研究所の試算では、ガソリン・軽油の旧暫定税率廃止によって2030年時点のCO₂排出量が610万トン増加する見通しです。そのうち運輸部門だけで360万トン増え、同部門全体の約2.5%に相当します。

世界的に見ると、日本のガソリン価格や税負担はすでにOECD加盟35カ国の中で下位水準。小売価格は米国に次いで2番目に安く、税負担も4番目に低いというデータがあります。
こうした中での恒久的な減税は、国際社会から「脱炭素への後退」と受け止められるおそれがあります。11月にブラジルで開催されるCOP30(国連気候変動枠組み条約締約国会議)でも、日本の姿勢が問われるでしょう。


結論

ガソリン税の旧暫定税率廃止は、長年の課題に区切りをつける一方で、次の課題を浮き彫りにしました。
家計の負担軽減と物価安定を優先する姿勢は理解できますが、兆円規模の税収減をどう補うか、また環境・財政の両面で持続可能な政策体系をどう描くかが問われています。

国民にとって「減税」は歓迎すべき響きを持ちますが、その裏側にある「誰が負担するのか」を丁寧に見つめることが、これからの財政・税制議論には欠かせません。


出典

  • 日本経済新聞(2025年11月1日朝刊)
    「ガソリン旧暫定税率を12月末廃止 1リットル25円、与野党6党合意」
    「政権、前のめり物価対策 財源確保は先送り」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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