11月中旬以降、ガソリン価格が段階的に下がります。政府の補助金拡充と、12月末に予定されている旧暫定税率の廃止によるものです。家計にとってはうれしいニュースですが、負担軽減の効果には地域差・所得差が大きく、物価高対策としての公平性に疑問が残ります。
経済産業省は11月13日からガソリン補助金を段階的に拡充し、12月11日には1リットルあたり25.1円の引き下げ効果が見込まれると発表しました。さらに、与野党6党は12月31日に旧暫定税率を廃止することで合意しており、消費税分を含めると最終的に27.6円の価格引き下げが期待されています。
しかし、この減税の恩恵は全国一律ではありません。家計調査をもとにした試算によると、ガソリン価格の引き下げによる年間の負担軽減額は、鳥取市や津市では世帯あたり1万8000円を超える一方、東京都区部では3600円、大阪市では4600円にとどまります。全国平均は約1万1900円です。公共交通が発達していない地方ほど自家用車への依存度が高く、結果として恩恵が大きくなる構図です。
所得階層で見ても差が明確です。高所得層ほど自家用車を複数所有する割合が高く、ガソリン支出も多いため、減税効果は上位2割で約1万4000円、下位2割で約7000円と、2倍の開きがあります。低所得層ほど公共交通の利用割合が高いことを踏まえると、「物価高対策」としては偏りのある制度といえます。
財源の問題も残ります。今回のガソリン減税に伴う税収減はおよそ1兆5000億円と見込まれています。与野党は年末までに歳出削減や法人税の租税特別措置(租特)の見直し、富裕層への課税強化といった対応策を検討しますが、すべてを補うのは難しい状況です。中長期的には自動車関係税や環境税による穴埋めの可能性も議論されています。
こうした流れに対し、「ガソリン減税は脱炭素政策に逆行する」との批判もあります。燃料価格を下げることで車の利用が増え、CO₂削減の努力が後退する懸念があるためです。一方で、地方では生活インフラとして車が不可欠であり、単純に環境負担だけで議論できない現実もあります。
結論
ガソリン減税は短期的な家計支援として一定の効果がありますが、地域差と所得差の大きさを考えると「全国一律の減税」が必ずしも公平とはいえません。地方では生活維持のための支援、高所得層では環境負担とのバランス、そして全体としての財源確保と脱炭素の整合性――これらをどう両立させるかが、今後の政策設計の焦点になります。
出典
日本経済新聞「ガソリン減税、効果に地域差」(2025年11月8日付)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
