インボイス制度の導入によって、フリーランスや小規模事業者に新たな「消費税の負担」が生まれました。本来であれば、取引先に適正に価格転嫁することが望ましいのですが、現実にはそれが難しいケースが多くあります。今回は、実際の調査結果と業種ごとの違いを見ながら、この問題を掘り下げます。
1. 価格転嫁できたのはわずか2割
フリーランス協会が2024年末ごろに行った調査によると、インボイス登録によって新たに生じた消費税の負担を「価格に転嫁できた」と答えた割合は 20%程度 にとどまりました。
裏を返せば、8割のフリーランスが自分の収入から消費税を負担しているのが実態です。
つまり「消費税分の負担がそのまま手取り減少につながっている」状況に、多くのフリーランスが直面しているのです。
2. 業種による違い――専門職は交渉余地あり
ただし、すべての業種で同じように負担を抱えているわけではありません。
- クリエーター、エンジニア、コンサルタントなどの専門職
比較的スキルに依存する仕事が多いため、取引先を選びやすく、価格転嫁ができる事例もあります。
例えば「消費税分を支払ってくれないなら、別のクライアントと契約する」といった交渉が可能です。 - 軽貨物ドライバーなどの契約依存型の職種
大手企業との契約に縛られることが多く、一方的に「報酬を引き下げる」と通告されるケースが多発。調査では 23%が報酬減を通告された と回答しており、専門職フリーランス(13%)よりも高い割合です。
この違いは、「取引先を選べる自由度」や「交渉力」 に大きく関係しています。
3. 多重下請け構造のしわ寄せ
特に軽貨物ドライバーのような業種では、業務委託契約の多くが「多重下請け構造」の中に位置づけられています。
元請け → 中間業者 → 下請け → 末端事業者…といった構造の末端にいると、どうしても報酬が低く抑えられやすく、インボイス導入による負担も転嫁しにくいのです。
これは単にフリーランス個人の問題ではなく、日本経済の構造的な弱点を映し出しています。
4. 「価格転嫁できない」とどうなるか?
消費税を価格に上乗せできなければ、フリーランスは 生活費を削って納税額を捻出する しかありません。
実際に「納税のために生活水準を下げざるを得ない」という声も多く聞かれます。
インボイス制度の本来の目的は「適正な消費税の納付」ですが、現実には弱い立場の事業者にしわ寄せがいっているのです。
まとめ
- インボイス導入後、消費税負担を価格転嫁できたのは2割にすぎない
- 専門職フリーランスは交渉力を持ちやすく、取引先を変える事例もある
- 軽貨物ドライバーなど契約依存型の業種では報酬減の通告が23%と深刻
- 背景には「多重下請け構造」という日本経済の弱点がある
次回は、こうした状況を一時的に和らげる 「激変緩和措置」 と、その期限が迫る2026年9月以降に起こり得る影響について解説します。
📖 参考:
- 日本経済新聞「消費税のリアル(下)インボイス、ブラック事例暴く」(2025年10月2日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
