インボイス制度が始まってから、「取引先から理不尽な扱いを受けた」という声が少なくありません。制度の趣旨は「消費税を正しく納めること」ですが、現場ではその趣旨とは関係のない“ブラック事例”が報告されています。今回は実際に寄せられたトラブル事例を紹介し、そこから見えてくる課題を考えます。
1. フリーランス協会の通報窓口に寄せられた声
プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が2022年末に立ち上げた「インボイス通報窓口」には、制度開始前から多くの通報が寄せられました。
制度開始後も報告は続き、累計で72件に達しています。
具体的には、次のような事例がありました。
- 「インボイスを発行しなければ、取引を打ち切る」と一方的に通告された
- 「インボイスを発行できないなら、消費税分を値下げしてほしい」とメールで迫られた
- 契約内容にインボイス発行を条件として追加され、拒否できなかった
これらは消費税制度の趣旨を逸脱し、場合によっては独占禁止法上の問題になる可能性もあります。
2. 「制度導入を機に企業の姿勢が露呈した」
協会の平田麻莉代表理事は「制度導入を機に、適正な報酬を支払おうという姿勢のない企業があぶり出された」と指摘しています。
つまり、インボイス制度そのものが“ブラックな取引慣行”を照らし出したともいえるのです。
こうしたトラブルを抑止するために通報窓口は役割を果たしましたが、件数は年々減少。一定の監視効果があったとして2024年6月に閉鎖されました。
3. トラブルが起きやすい背景
なぜこうしたトラブルが起きるのでしょうか?
- インボイスがないと取引先にとって不利益になる → 強い立場の企業が「負担を押しつける」構図になりやすい
- フリーランスは交渉力が弱い → 「仕事を失いたくない」という心理が働き、泣き寝入りするケースもある
- 制度の理解不足 → 担当者自身がインボイス制度を誤解しており、不適切な要求をしてしまう場合もある
このように、制度そのものよりも「取引関係の力学」や「認識のずれ」が大きな要因になっています。
4. フリーランスに求められる対応
制度の枠組みを個人で変えることはできません。しかし、自分を守るためにできることはあります。
- 契約内容を必ず書面で確認し、曖昧な条件にはサインしない
- 一方的に不利益を押しつけられた場合は、協会や公的な相談窓口に相談する
- 「適正な報酬を払わない取引先」からは距離を置き、新しい取引先を探す視点を持つ
もちろん簡単ではありませんが、「ブラックな取引先に依存しない働き方」を少しずつ模索することが大切です。
まとめ
- インボイス制度をめぐって、取引先とのトラブル事例が多数報告された
- 「消費税分を値下げ」「取引停止の通告」などは独禁法上の問題になる可能性がある
- 制度がブラックな慣行をあぶり出した一方、フリーランスには自己防衛の工夫が求められる
次回は、フリーランス協会の調査から見えた「価格転嫁の実態」と「業種ごとの差」について取り上げます。
📖 参考:
- 日本経済新聞「消費税のリアル(下)インボイス、ブラック事例暴く」(2025年10月2日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
