老後資金について考える際、多くの人がまず気にするのは「いくらあるか」という金額です。
しかし、これからの時代により重要になるのは、「そのお金にどれだけの価値があるか」という視点です。
近年、物価の上昇が家計に与える影響は無視できなくなっています。老後資金を考えるうえでも、インフレを前提とした見方に切り替える必要があります。
額面と実質価値は同じではない
金融資産が増えているかどうかを判断する際、多くの人は額面の増減だけを見がちです。
しかし、物価が上昇している状況では、同じ金額でも実際に買えるモノやサービスの量は減っていきます。
例えば、金融資産が1年間で2%増えたとしても、物価が3%上昇していれば、実質的には資産価値が下がったことになります。
老後資金では、この実質価値という考え方が欠かせません。
インフレが老後資金に与える影響
インフレの影響は、長期になればなるほど大きくなります。
老後生活は10年、20年と続く可能性があり、その間に物価が少しずつ上がれば、現金の購買力は確実に低下します。
現役時代には気にならなかった数%の物価上昇も、老後の固定収入が中心となる生活では、生活水準に直結する問題になります。
預貯金中心の安心感とリスク
預貯金は、元本が減らないという意味で安心感のある資産です。
老後資金において、一定額の現金を確保することは重要であり、否定されるものではありません。
ただし、すべてを預貯金で持つことが安全とは限りません。
インフレが続けば、預貯金の利息では物価上昇に追いつかず、実質的な価値は目減りしていきます。これは、見えにくいリスクの一つです。
実質価値で資産の増減を確認する
老後資金の点検では、1年前と比べて資産がどれだけ増えたかを見るだけでなく、物価上昇を差し引いて考えることが大切です。
金融資産の増加率が、物価上昇率を上回っているかどうかを確認することで、実質的に老後資金が育っているかが見えてきます。
この視点を持つだけでも、資産の見え方は大きく変わります。
インフレに備えるという考え方
インフレに備えるとは、すべての資産を運用に回すことではありません。
重要なのは、流動性資金や安全性資金を確保したうえで、長期で使わない資金については、物価上昇に対応できる持ち方を検討することです。
老後資金を守るということは、金額を固定することではなく、価値を維持することだと捉える必要があります。
結論
老後資金を考える際、額面だけを見る時代は終わりつつあります。
インフレが続く環境では、実質価値という視点を持たなければ、知らないうちに資産が目減りしてしまいます。
次回は、こうした環境の中で、50代・60代が資産運用とどう向き合うべきかを整理します。リスクを避けることと、リスクを理解することの違いについて考えていきます。
参考
日本経済新聞
老後資金、棚卸しで点検――インフレ考慮し運用戦略を(2025年12月20日 朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
