物価上昇が続くなかで、税制にもその影響が及んでいます。
2026年度税制改正では、国税と地方税を合わせて39の制度で「課税されない基準額」が引き上げられることになりました。
これは単なる減税措置というよりも、インフレによって生じる実質的な増税を防ぐための調整という意味合いを持っています。
不動産取得税、固定資産税、企業の食事補助、通勤手当、少額資産の特例など、多くの制度が対象となっています。本稿では、今回の改正の内容と、その背景にある税制の考え方を整理します。
インフレで起きる「見えない増税」
税制には多くの「基準額」が存在します。
例えば次のようなものです。
- 非課税となる金額
- 免税となる資産の評価額
- 特例が適用される取得額
これらの金額が長期間据え置かれると、物価上昇によって実質的な税負担が増えることになります。
例えば、物価が上がれば資産価格や給与水準も上昇します。すると、制度の基準額を変えない場合、本来は課税対象と想定していなかった取引まで課税されるようになります。
この現象は「ブラケットクリープ(課税区分の実質的引き上げ)」とも呼ばれます。
そのため、インフレ局面では基準額の見直しが必要になるのです。
53年ぶりの見直しとなる不動産取得税
今回の改正の中でも象徴的なのが、不動産取得税の免税基準額の引き上げです。
小規模な取引については不動産取得税を課さない制度がありますが、この基準額が見直されます。
改正内容は次のとおりです。
土地
10万円未満 → 16万円未満
建物(新築・増築)
23万円未満 → 66万円未満
この見直しは1973年以来、実に53年ぶりとなります。
長期間基準額が据え置かれてきたことを考えると、今回の改正はインフレ調整としての意味合いが強いといえます。
固定資産税の免税点も見直し
固定資産税にも「免税点」があります。
これは資産の評価額が一定額未満の場合、課税しないという制度です。
2027年度から次のように変更される予定です。
建物
20万円未満 → 30万円未満
償却資産
150万円未満 → 180万円未満
この制度の見直しには、税負担の調整だけでなく、自治体の事務負担の軽減という目的もあります。
免税点以下の資産については
- 納税通知書の作成
- 税額計算
- 徴収事務
などが不要になるためです。
企業関連の非課税制度も拡充
企業が従業員に支払う各種手当についても見直しが行われます。
主な改正は次のとおりです。
食事補助の非課税限度額
月3500円 → 月7500円
深夜勤務の夜食補助
1回300円 → 650円
この見直しは1984年以来、42年ぶりとなります。
物価上昇により、これまでの基準では社員食堂の運営や食事補助制度が機能しにくくなっていたためです。
また、マイカー通勤の通勤手当についても新区分が設けられます。
例えば
片道65km以上75km未満
月4万5700円(現行より約7000円増)
といった形で、長距離通勤者への非課税枠が拡充されます。
中小企業の設備投資を後押しする特例
中小企業向けの少額減価償却資産の特例も見直されます。
現行制度では
取得価額30万円未満
の資産について、取得年度に全額を損金算入することが可能です。
今回の改正では
30万円未満 → 40万円未満
へ引き上げられます。
例えば
- パソコン
- ソフトウェア
- 業務用機器
などの購入において、税務上の即時費用化が可能となります。
ただし、特例の年間上限
300万円
は維持されます。
税制はインフレに対応できるのか
今回の改正は「減税」というよりも、税制のインフレ調整といえます。
基準額を長期間据え置いたままにすると、制度本来の目的が失われてしまうためです。
今回の改正では、政府が2025年の骨太の方針で示した
公的制度の基準額の見直し
という方針が実際の税制改正として具体化しました。
政府・与党は、2027年度以降も基準額の見直しを続ける方針を示しています。
結論
2026年度税制改正では、39の税制措置で非課税基準額などが引き上げられました。
不動産取得税、固定資産税、食事補助、通勤手当、中小企業の少額資産特例など、多くの制度が対象となっています。
これらの見直しは単なる減税ではなく、インフレによって生じる実質的な増税を防ぐための調整です。
今後、日本経済が物価上昇局面に入る場合、税制においてもこうした「基準額の調整」がより重要な政策テーマになっていく可能性があります。
参考
日本経済新聞
「インフレ下、課税減免拡大 26年度改正 不動産取得や社食、39件で負担減」
2026年3月9日 朝刊

