インバウンド不動産投資と税務リスク― 非居住者取引拡大時代の実務対応 ―

税理士
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近年、海外投資家による日本国内の不動産取得が増加しています。いわゆるインバウンド不動産投資は、都市部を中心に市場を活性化させる一方で、税務実務の難度を高めています。

令和8年度税制改正では、非居住者向け国内不動産取引に関する消費税の取扱いも見直されました。

本稿では、インバウンド不動産投資に関して生じやすい主要な税務リスクを体系的に整理します。


1.消費税リスク ― 内外判定と輸出免税の誤認

従来、非居住者に対する国内不動産売買の仲介手数料等は輸出免税の対象とされてきました。しかし、令和8年10月以後は原則として課税対象となります。

ここで問題となるのは、次のような誤認です。

・相手が非居住者であるから免税と判断してしまう
・契約締結日と引渡日を混同する
・管理手数料との区別を誤る

不動産は国外に持ち出せない資産であるため、役務の効果は国内に帰属します。内外判定の基本原則に立ち返ることが重要です。


2.源泉徴収リスク ― 非居住者への支払

非居住者が国内不動産を売却する場合、原則として買主は売買代金の10.21%を源泉徴収する義務があります(個人の場合)。

例外として、売買代金が1億円以下で、かつ買主が自己または親族の居住用に供する場合には源泉徴収は不要です。

実務上のリスクは次の点です。

・非居住者判定を誤る
・法人か個人かを確認しない
・1億円基準の適用要件を誤解する

源泉徴収漏れは買主側の責任となるため、仲介業者にも説明責任が生じます。


3.所得税・法人税リスク ― 恒久的施設(PE)問題

海外法人が日本国内不動産を取得し、賃貸や転売を行う場合、恒久的施設(PE)該当性が問題となります。

・日本に事務所を設けているか
・代理人が契約締結権限を持つか
・継続的な事業活動と評価されるか

PEに該当すれば、日本で法人税の申告義務が生じます。
形式的に海外法人名義であっても、実質的な事業活動が国内にある場合は課税対象となります。


4.固定資産税・登録免許税・不動産取得税

不動産取得時には以下の税負担が発生します。

・登録免許税
・不動産取得税
・固定資産税

非居住者であっても、国内所在不動産である以上、これらの税は当然に課税されます。

海外投資家は取得時の税コストを十分理解していないことも多く、後日のトラブル要因となります。


5.相続・贈与リスク

日本国内不動産は、日本の相続税・贈与税の課税対象財産です。

非居住者が所有していても、

・国内財産として日本で課税対象となる
・国外居住者間であっても課税され得る

といった論点が発生します。

国際相続の場面では、居住地判定・国籍要件・租税条約の有無など、複雑な検討が必要です。


6.マネーロンダリング対策・実務リスク

インバウンド不動産投資では、本人確認や資金出所確認の重要性が高まっています。

・実質的支配者の確認
・海外送金ルートの把握
・租税回避スキームへの関与リスク

税務のみならず、コンプライアンス全体の視点が求められます。


7.価格調整・税コスト転嫁リスク

消費税課税化や源泉徴収制度により、取引コストは上昇します。

結果として、

・仲介手数料の値引き要求
・税込・税抜表示の混乱
・投資利回りの再計算

といった影響が生じます。

税制改正は単なる税負担増ではなく、価格形成そのものに影響を与えます。


結論

インバウンド不動産投資は市場に資金を呼び込む一方で、消費税・源泉所得税・法人税・相続税など多面的な税務リスクを内包しています。

特に令和8年10月以後は、非居住者向け取引の消費税処理を誤るリスクが顕在化します。

重要なのは、

・非居住者判定の正確性
・内外判定の原則理解
・源泉徴収義務の確認
・契約日ベースでの経過措置管理

これらを体系的にチェックする仕組みづくりです。

インバウンド不動産投資は拡大傾向にありますが、税務リスクを正しく管理できる事業者のみが安定したビジネスを継続できます。

制度改正のタイミングこそ、実務体制を見直す好機といえるでしょう。


参考

税のしるべ
2026年2月16日号

令和8年度税制改正大綱(自民党税制調査会)

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