インドの株式市場が久々に明るい兆しを見せています。主要株価指数SENSEXは2カ月ぶりの高値圏に戻りつつあり、その背景には政府が打ち出した「大型減税策」があります。消費を直接刺激する政策が投資家心理を改善し、海外資金の流出に歯止めがかかっているのです。本稿では、この減税の効果にクローズアップし、インド株式市場の復調シナリオを考えていきます。
減税の具体的な内容
モディ政権が8月15日に発表し、わずか1カ月後の9月22日に実施したのが今回の減税策です。消費税に相当する「物品・サービス税(GST)」の大幅な引き下げが柱で、内容は以下の通りです。
- 生活必需品:バターやチーズ、パスタなどの税率を12%から5%へ引き下げ。
- 自動車・二輪車:28%から18%へと、10ポイントの大幅減税。
特に自動車・二輪車に対する減税幅は大きく、インドの広大な国内市場で個人消費を喚起する効果が期待されます。インド経済の成長エンジンは「個人消費」であり、GDPの約6割を占めると言われます。この部分に直接刺激を与える政策は、極めてインパクトが大きいのです。
市場に表れた即効性
実際にSENSEXは9月に入り3.5%の上昇を記録しました。このまま推移すれば3カ月ぶりに月間リターンがプラスで終わる見込みです。海外投資家の売り越しも収まりつつあり、9月第3週には1億8900万ドルの買い越しとなりました。
さらに、自動車関連株が上昇を主導しています。アイシャー・モーターズ、TVSモーター、マルチ・スズキといった二輪・四輪メーカーが上昇率上位に名を連ね、部品メーカーのチューブ・インベストメンツも躍進しました。減税が「消費拡大」→「自動車販売増」→「関連産業活性化」という波及効果を市場が織り込み始めていることがうかがえます。
経済成長率への押し上げ効果
減税効果は株価だけでなく、マクロ経済の成長率予想にも反映されています。
- DBSグループは2026年3月期の成長率予想を 6.3%から6.7%へ上方修正。
- JPモルガンは生活必需品や金融、不動産、発電など幅広いセクターを「強気」と評価。
つまり、消費刺激が「経済全体の底上げ」につながるとみられているのです。物価上昇が落ち着いている今だからこそ、減税の需要押し上げ効果はダイレクトに発揮されやすい状況と言えます。
海外投資家マネーの動向
もう一つの重要な効果は、海外投資家の資金動向に変化をもたらしている点です。過去1年間、海外勢は270億ドルという巨額の売り越しを続けてきましたが、ここに来て買い越しへと転じました。国内投資家の買い支えに加え、海外マネーの流出が止まるだけでも株価には大きなプラス要因となります。
「市場の信頼の回復」という言葉が各証券会社のレポートに並び始めたのも象徴的です。減税という即効性の高い政策が、投資家心理に直接作用していることを示しています。
今後の焦点――減税だけで十分か
とはいえ、インド株の完全な復調にはさらなる条件が必要です。ポイントは2つあります。
- 米国との関税交渉
トランプ政権との関係悪化で、インドは一部製品に最大50%の追加関税を課されています。これが解消されれば、海外投資家の警戒感は一気に和らぐでしょう。 - インド準備銀行(RBI)の利下げ再開
物価上昇率が1.61%と低水準になり、市場では年内にも追加利下げがあるとの期待が高まっています。0.25%か、あるいは景気下押しリスクを考慮して0.5%の利下げもあり得るという見方もあります。
減税とあわせて金融緩和、関税問題の改善が進めば、海外マネー回帰のシナリオがさらに現実味を帯びるでしょう。
強気の見通しも
米モルガン・スタンレーは最新リポートで「SENSEXが2026年6月に8万9000まで上昇する可能性は50%」と予測。さらに「10万に達する確率は30%」という強気シナリオも提示しました。減税のインパクトが、単なる短期的な株価上昇にとどまらず、中期的な成長期待につながっていることを示しています。
おわりに
インド政府の大型減税は、個人消費を刺激し、株式市場に活気を取り戻しつつあります。海外投資家の売り越しが止まり、自動車関連株を中心に株価が回復に向かっているのは、この政策の即効性を物語っています。
ただし、インド株の真の復調には、関税問題と金融政策という追加の支援が欠かせません。今後、政策の総動員でどこまで海外マネーを呼び戻せるかが、SENSEXが再び史上最高値を更新できるかどうかの試金石となるでしょう。
👉 この原稿は、日本経済新聞(2025年9月23日朝刊)記事「インド株復調の兆し 減税好感、2カ月ぶり高値」を参考に執筆しました。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

