インドの株式市場が回復の兆しを見せています。その背景には政府による大型減税がありますが、もう一つ注目すべき点は「海外投資家の動き」です。これまで1年間にわたり売り越しを続けていた海外マネーが、ここにきて買い越しに転じたのです。本稿では、この海外投資家マネーの動向に焦点を当て、その背景と今後の展望を考えます。
巨額売り越しからの転換
インド市場は2024年以降、海外投資家の巨額な売り越しに苦しんできました。米ゴールドマン・サックスによれば、過去1年間でその額は 270億ドル(約4兆円超) にのぼり、新興国株の中でも最大規模の売り越しとなっていました。これが相場の上値を重くし、世界的な株高局面からインド株を取り残す大きな要因となっていたのです。
ところが9月に入り状況は一変。インド証券保管会社(NSDL)の集計では、9月第3週(15~19日)の海外投資家による取引は 1億8900万ドルの買い越し。しかも2週連続での買い越しとなり、潮目の変化を示しました。
減税が投資家心理を好転させた
この変化の契機となったのが、モディ政権による 物品・サービス税(GST)の減税 です。自動車や二輪車への税率引き下げは国内消費を押し上げると期待され、経済成長率の上方修正につながりました。
投資家にとって重要なのは、「インド政府が経済を下支えする意思を明確に示した」点です。これにより、長らく海外資金を遠ざけていた 「政策への不信感」 が緩和され、市場に「信頼の回復」が芽生えたのです。
国内投資家との役割分担
海外投資家が売り越しを続けていた間、インド株を支えてきたのは国内投資家でした。個人を中心にした国内資金の買いは続いており、「海外の売りが止まるだけでも株価にはプラス効果がある」との見方が強まっています。
つまり、現在の相場環境は「国内資金が下支え」+「海外資金の回帰」という二重のサポートが働き始めている状況です。
今後の焦点 ― 本格的な回帰はあるのか
ただし、海外マネーの本格的な回帰にはまだ課題が残ります。
- 米国との関税交渉
トランプ政権との対立により最大50%の追加関税を課されている状況が続いています。これが緩和されれば、投資家心理の改善は一段と加速するでしょう。 - インド準備銀行(RBI)の金融政策
物価上昇率の低下を背景に、市場は年内の追加利下げを織り込みつつあります。利下げ再開が実現すれば、株式市場にとって強力な追い風になる可能性があります。
海外投資家はグローバル資金の流れに敏感であり、米国金利動向や新興国全体のリスク許容度の変化も影響します。その意味では、インド単独の政策努力だけでなく、国際環境の改善が欠かせません。
強気予想が示す「可能性」
米モルガン・スタンレーは、「2026年6月にSENSEXが8万9000に達する可能性は50%、10万に到達する確率も30%ある」と指摘しています。こうした強気シナリオの背景には、海外マネーの回帰が不可欠です。
減税という国内要因が投資家心理を改善させた今こそ、次の一手として 貿易交渉と金融緩和 の進展が求められているのです。
おわりに
インド株式市場の回復は、政府の減税策による即効的な効果と、海外投資家の売り姿勢が収まったことによって現れ始めました。これまで市場を重くしていた「海外マネーの流出」が止まっただけで、株価に明確なプラス効果が出ているのは注目に値します。
ただし、真の意味で海外マネーが回帰し、インド株が再び新興国市場をけん引するためには、関税問題と金融緩和という追加条件が不可欠です。今後数カ月の政策判断が、インド株の行方を大きく左右するでしょう。
👉 本稿は、日本経済新聞(2025年9月23日朝刊)記事「インド株復調の兆し 減税好感、2カ月ぶり高値」を参考に執筆しました。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
