インターネット銀行と地方税収 ― 東京一極集中をどう是正するか

政策
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インターネット銀行の利用が広がる中、預貯金の利子に課される個人住民税(利子割)が東京都に偏る現象が鮮明になっています。ネット銀行の多くが東京に本社を置くため、地方在住者の預金利息から生じる税収が東京に集まる構造が生まれています。総務省はこの偏りを是正するため、都道府県間で税収を再配分する「清算制度」の導入を検討していますが、制度設計の難しさやデータの制約が議論を複雑にしています。

1.利子税収の集中と制度の歪み

個人住民税の利子割は、預貯金の利子を課税対象とし、預金口座の店舗所在地に基づいて税収を配分します。ネット銀行は実店舗を持たず東京に本社を構えるケースが多いため、地方在住の預金者が得た利子から生じる税収が東京都に納められる仕組みになっています。
東京都の利子税収シェアは、2021年度の24.7%から2024年度には41.0%へと上昇が見込まれており、全国的にも偏在が進んでいることが明らかです。

こうした構造は、インターネット以前に設計された税制度がデジタル化・オンライン取引の進展に追いついていないことを示しています。本来であれば、預金者の居住地に応じて税収を配分する「住所地課税」が望ましいとされています。

2.清算制度の導入と課題

総務省の検討会では、税収の偏りを是正するために、課税所得などを基準に都道府県に再配分する「清算制度」の導入が議論されています。しかし、関係者からは慎重論も根強く、統計データの精度や公平性への懸念が指摘されています。

東京都側の委員は、「ネット銀本社の集中は事実だが、今後も偏りが続くかは不透明で、国が用いるデータのサンプルは不十分」とし、制度設計以前に実態の把握が必要だと主張しています。

また、再配分の基準として挙げられる「課税所得」にも問題があります。所得は現役世代に偏る一方、金融資産は高齢世代に集中しているため、所得を基準にすると実態を正確に反映できない可能性があります。

3.「ハイブリッド型」への期待

有識者の間では、預貯金データと所得データを組み合わせた「ハイブリッド型再配分方式」が現実的だという意見が出ています。預貯金残高は利子発生と相関が高い一方で、年度ごとの変動が大きく統計的に安定しにくいという課題があります。一方の所得データも、必ずしも利子所得と連動するわけではありません。両者を併用することで、理論的正確性と制度運用の実際性のバランスを取ることが期待されます。

ただし、この方法を実現するには、マイナンバーと預貯金口座のひも付けを進めることが不可欠です。現在、3メガバンクを含めてもひも付け率は低水準にとどまっており、金融デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れが大きな壁になっています。

4.「住所地課税」への道筋

最終的な目標は、預金者の居住地に基づく「住所地課税」の実現です。そのためには、マイナンバー制度を基盤に、金融機関が保有する預金・利子情報を自治体課税に適切に反映させる仕組みを構築する必要があります。
現状では国・地方ともに法制度やシステムの整備が追いついておらず、暫定的に清算制度で対応する「次善策」を選ばざるを得ない状況です。

税収の偏りを放置すれば、地方自治体の自主財源の格差が広がり、地域の公共サービスやインフラ維持に影響を及ぼすおそれがあります。地方交付税による補完だけでは持続可能な地域運営は難しく、税制度そのものの再設計が求められています。

結論

ネット銀行の普及が示したのは、税制度のデジタル時代への遅れです。清算制度の導入はあくまで過渡的な対応にすぎず、根本的な解決にはマイナンバーと金融情報の連携を軸とした住所地課税の実現が必要です。政治や行政は「公平な税負担と地方の自立財源確保」という原点に立ち返り、技術的・制度的な基盤整備に早急に取り組むべき時期に来ています。


出典

・「東京偏在の利子税収見直し 2氏に聞く」日本経済新聞(2025年10月31日)
・「再配分、ハイブリッド型で」日本経済新聞(同上)
・「進まぬ金融DXが壁に」日本経済新聞(同上)
・「個人住民税の利子割とは」日本経済新聞(同上)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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