日本の多くの働く人が、「給与はなかなか上がらない」と感じている一方で、
株価はここ10年で2倍以上に上昇しました。
いま、企業のあいだで静かに広がっているのが、
「給与だけでなく、株式でも報いる」という新しい流れです。
このシリーズでは、「働く」と「投資」が交わる時代を生きるための考え方を、
一般のビジネスパーソン向けにやさしく解説します。
第1回 「給料だけじゃない」時代へ ― 株式でもらう働き方が始まった
「おお、すごい上がってる!」
丸紅の社員がエレベーターで自社株価を見てつぶやいた――そんな日経の記事が象徴的でした。
丸紅では社員の96%が従業員持株会に加入。
会社の成長が、社員の資産にも直結する仕組みが整っています。
第一生命HDも、2024年から全社員に株式報酬を導入。
課長級なら最大600万円相当の株を受け取ることができます。
株式報酬を導入する企業はこの10年で4倍に増え、いまや上場企業の3社に1社が採用。
働く場所が、同時に「投資先」になっているのです。
第2回 ピケティの“r>g”をやさしく読む ― 資本で差がつく理由
なぜ「給与」より「株式」で報われる社会が進んでいるのか?
そのヒントは、フランスの経済学者トマ・ピケティの有名な式――
r > g(資本収益率>経済成長率)
ピケティの分析によると、
- 資本の収益率(r)は平均5%前後
- 経済成長率(g)は1~2%程度
つまり、お金を働かせる人は、自分が働くだけの人より早く豊かになる。
日本でも、過去10年間で日経平均は約2倍に、給与・賞与総額は2割増にとどまりました。
いまや「r>g」は、日本でも現実です。
だからこそ、私たちも少しずつ“rの側”に立つ必要があります。
NISA・iDeCo・持株会――小さくても、資本に働いてもらう仕組みを持つことが、
これからの時代の“生活防衛”です。
第3回 会社から株でもらう報酬 ― 持株会・ストック報酬のしくみ
では、実際にどんな制度があるのでしょうか?
🏢 従業員持株会
給与天引きで自社株を少しずつ購入。
会社から拠出額の5〜10%の奨励金が出ることも多く、
“手軽な資産形成”として人気が高まっています。
ただし、「給与と株の両方が会社依存になる」ため、
資産の2〜3割までに抑えるのが理想です。
💰 株式報酬制度
最近急増中の「株式でもらう報酬」。
業績に応じて社員に株を付与し、
経営への一体感とモチベーション向上を狙う仕組みです。
例:
- 株式付与型報酬(そのまま株を支給)
- 信託型報酬(RSU)(一定期間後に株が交付)
- パフォーマンス株式(PSU)(目標達成度で株数が決まる)
🚀 ストックオプション
「将来の株価をいまのうちに買う権利」。
ベンチャーや上場準備企業では定番です。
株価上昇がダイレクトに報酬アップにつながります。
第4回 自社株のリスクと賢い付き合い方
株式報酬や持株会は魅力的ですが、
忘れてはいけないのがリスク分散です。
もし業績が悪化すれば――
株価が下がる+ボーナスも減る。
給与と株が“同時に”下がる「二重リスク」があります。
💡リスクを抑えるポイント
1️⃣ 自社株は資産全体の20〜30%以内に。
2️⃣ 一部を売却して他資産に分散。
3️⃣ 「倍になったら半分売る」などマイルールを。
また、株式報酬やストックオプションには
譲渡益課税(20.315%)や権利行使課税など、税金の扱いもあります。
会社の人事や税理士に早めに相談しておきましょう。
第5回 “全員投資家”の社会へ ― スウェーデンに学ぶ未来の働き方
1980年代、スウェーデンでは政府主導で「みんなのファンド」という
税制優遇つき積立制度がスタートしました。
給与の一部を投資信託などで運用し、
国民のほぼ全員が投資家となったのです。
結果、家計資産の9割が金融商品となり、
音楽配信のSpotify、フィンテックのKlarnaなど、
世界的なスタートアップが次々と誕生しました。
🇯🇵 日本が学べること
1️⃣ 制度の整備:NISA・iDeCoを“日本版みんなのファンド”へ。
2️⃣ 教育の拡充:学校・社会人への金融教育を標準化。
3️⃣ 企業文化の変化:「社員も株主」という意識を浸透。
おわりに ― 働く人が資本家になる時代へ
「資本家」という言葉は、
もう一部の富裕層だけのものではありません。
給与で暮らし、株で未来をつくる。
働きながら経済に参加する。
それが、これからの“資本家化”時代の生き方です。
私たち一人ひとりが“資本の側”に立つことで、
日本の経済そのものが豊かさを取り戻していく――。
そんな未来を、一緒に考えていきましょう。
📚 出典:
2025年10月19日 日本経済新聞朝刊
「資本騒乱 さらば運用貧国(5)株式報酬、従業員を資本家に」
トマ・ピケティ『21世紀の資本』(みすず書房)
スウェーデン金融監督庁(Finansinspektionen)年報 ほか
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

