税務調査にAIが使われていると聞くと、「どんな基準で選ばれているのだろう」「AIは何を見ているのだろう」と疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。
AIによる調査選定は、魔法のように不正を見抜く仕組みではありません。
実際には、申告書や決算書など、すでに提出されている情報をもとに、過去の事例と照らし合わせながら「違和感」を数値として捉えています。
第2回では、AIが税務調査でどのような視点で法人を選んでいるのか、その考え方を整理していきます。
AIが見ているのは「新しい情報」ではない
まず押さえておきたいのは、AIが使っている情報は、特別な裏データではないという点です。
申告書、決算書、法定調書、過去の調査事績など、国税組織が正規に保有しているデータが分析対象です。
つまり、納税者自身が提出している数字や、取引の結果として自然に集まる情報が、すべて分析の材料になっています。
AIは新しい情報を発見するのではなく、既存の情報の「組み合わせ」や「傾向」を見ています。
「単年度」ではなく「流れ」を見る
AI分析の大きな特徴は、単年度の数字だけで判断しない点にあります。
売上や経費が一時的に増減すること自体は、事業活動では珍しくありません。
しかし、
・数年にわたる推移
・前年との比較
・同業他社との水準差
といった要素を重ねて見ることで、違和感が浮かび上がることがあります。
人間であれば見落としがちな微妙なズレも、データとしては明確な差として認識されます。
業界平均との差異は重要な手がかり
AIは、同じ業種・同じ規模の法人同士を比較することができます。
そのため、業界平均と比べて著しく異なる数値は、調査のヒントになります。
例えば、
・利益率が極端に低い、または高い
・売上規模に対して経費が不自然に多い
・仕入や外注費の割合が業界水準から大きく外れている
といった点は、理由の説明がつかない場合、調査必要度が高いと判断されやすくなります。
重要なのは、「平均と違うこと」自体が問題なのではなく、「説明できない違い」があるかどうかです。
人の感覚とAIの判定は違う
調査官の経験や勘は、これまでも税務調査の重要な要素でした。
一方、AIは感覚ではなく、数字の積み重ねで判断します。
人であれば「たまたま今年はこうなった」と感じるケースでも、
AIは「この動きは過去の不正事例と似ているか」「他の法人と比べて異常ではないか」を冷静に判定します。
その結果、本人に悪意がなくても、説明が不十分な申告はリスクとして抽出される可能性があります。
結論
AIが税務調査で見ているのは、不正の有無そのものではありません。
データ上の違和感や、過去の事例と似たパターンがあるかどうかです。
裏を返せば、数字の動きに合理的な説明がつき、帳簿や申告が整合的であれば、過度に恐れる必要はありません。
AI時代の税務調査とは、「隠しているか」よりも「説明できるか」が問われる調査だと言えます。
次回は、こうしたAI分析を経て、実際にどのようなプロセスで税務調査が決まっていくのかを見ていきます。
参考
・税のしるべ「AIと調査官の知見を組み合わせ精度の高い調査を実施」(2025年12月8日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
