「金(ゴールド)」と聞くと、多くの人は指輪やネックレスといった装飾品を思い浮かべるのではないでしょうか。けれども金は古くから「資産を守る手段」として世界中で用いられてきました。紙幣や株式とは異なり、国や企業の信用に依存しない“実物資産”だからです。
ここ数年、日本国内でも金の価格が急上昇を続けています。2023年8月に1グラム=1万円を突破したのが記憶に新しいところですが、2025年9月にはついに2万円に達しました。わずか2年で価格が倍増するというスピード感は、一般の投資家だけでなく生活者にとっても驚きの出来事です。
では、なぜ今これほど金が買われているのでしょうか。第一回ではその背景を整理し、金が持つ意味を改めて考えてみます。
1. 金価格を押し上げる「三つの要因」
金価格の上昇には、複数の要因が重なっています。
(1) 円安と物価高
日本の金価格は国際的なドル建て価格に加え、為替の影響を大きく受けます。2024年以降、円相場は1ドル=140〜150円前後で推移し、かつての100円台前半に戻る気配がありません。円安は輸入コストを押し上げ、生活必需品の値上げが続いています。
このような状況では「円の購買力が低下するのでは」という不安が広がり、相対的に価値が目減りしにくい金に資金が流れやすくなります。
(2) 世界的な地政学リスク
ロシアによるウクライナ侵攻は3年目に入り、中東でも新たな戦火が広がっています。さらにイラン核合意の崩壊など、国際社会の不安要因は後を絶ちません。先行きが不透明になると、投資家は「いざという時に安全」とみなされる金を買う傾向が強まります。
(3) ドル不信の拡大
米国の通商政策や金融政策も影響しています。米政権がFRBに利下げ圧力をかけるなかで「ドルの信頼性が揺らいでいる」と受け止める投資家は少なくありません。世界の基軸通貨ドルへの不安は、代替資産としての金の需要を後押ししています。
2. 投資家心理と「資産防衛」志向
興味深いのは、今回の金価格上昇が「高くなったから売る」動きよりも、「さらに買う」という動きを生んでいることです。
田中貴金属の直営店には開店前から人が並び、若年層の新規口座開設も急増。20〜30代が新規顧客の3割近くを占め、数年前の2割から大きく拡大しています。
かつては「退職金を地金に変える高齢者」というイメージが強かった金投資が、今では「現役世代が貯金の一部を金に振り向ける」という姿に変わりつつあるのです。
その背景には、資産運用における「防御」の意識があります。株や不動産が値下がりする可能性がある中で、価値がゼロになる心配の少ない金は“資産の避難先”として魅力的に映るのです。
3. 小口化する金投資
もう一つの特徴が「小口化」です。
以前は100グラム単位の地金が主流でしたが、最近では50グラムや20グラムといった小さめのサイズが売れ筋になっています。
この流れを受けて田中貴金属は50グラム以下の地金の生産を増やし、石福金属でも予約が殺到。小口で買えるようになったことで、一般の生活者にも手が届きやすくなりました。まさに「金投資の民主化」が進んでいると言えるでしょう。
4. 金の魅力とリスク
金投資の魅力は何といっても「価値がゼロになりにくいこと」です。紙幣と違い、国家の信用リスクに左右されず、世界中どこでも通用する点は大きな安心材料です。
ただし注意すべき点もあります。
- 金は利息や配当を生まない
- 価格が下落すれば当然損失も出る
- 保管や売買のコストがかかる場合がある
つまり「金さえ持っていれば安心」というわけではありません。大切なのは、資産全体の一部に金を組み入れ、リスクを分散することです。
5. 歴史的に見た金価格の役割
実は金価格の高騰は今回が初めてではありません。リーマン・ショック後や新型コロナ禍でも金は大きく値を上げました。歴史を振り返ると、金融危機や戦争、インフレといった“不安の時代”には必ず金が注目されてきました。
つまり、金価格の急騰は単なる投資トレンドではなく「世界が不安定であることの証明」とも言えるのです。今回の急上昇もまた、現代のリスク社会を映し出しています。
6. これからどう向き合うべきか
金価格は2025年9月、ついに国内で1グラム=2万円を突破しました。専門家の間では「まだ通過点にすぎない」という声もあり、国際市場では1トロイオンス=4000ドルが視野に入っています。
しかし、価格水準そのものよりも重要なのは、「なぜこれほど金が買われているのか」という背景を理解することです。円安・インフレ、地政学リスク、ドル不信――。これらは今後も解消されにくい構造的な課題です。
だからこそ、金を“短期の投機対象”ではなく“長期の資産防衛手段”として位置づけることが大切です。
おわりに
金価格の急上昇は、日本経済と私たちの生活環境が大きく変わりつつあることを示しています。現金や預金に頼るだけでは不安な時代、分散投資の一部として金を検討する動きは今後も広がっていくでしょう。
ただし忘れてはいけないのは、金にもリスクがあるということ。株や債券、現金とバランスをとりながら、「守りの資産」としてどう活用するかを考えることが、これからの資産形成において欠かせない視点となります。
📌 参考
- 金1グラム2万円を突破 高値でも購入、インフレ下で資産防衛(日本経済新聞, 2025年9月29日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

