月次試算表を見て、急に原価率が改善していると「コストダウンが進んだのでは」と感じることがあります。
特に製造業では、原価率は経営状態を判断する重要な指標の一つです。しかし、原価率が下がったという事実だけをもって、経営が良くなったと判断してしまうのは危険な場合があります。
本稿では、「たくさん作ると原価率が下がる」という現象の仕組みと、その裏に潜むリスクについて整理します。
原価率を下げる方法は二つしかない
売上総利益は、売上高から売上原価を差し引いて計算されます。
販売数量が変わらない前提で粗利を増やす方法は、次の二つしかありません。
一つは、販売単価を上げることです。
もう一つは、製品一つあたりの原価を下げることです。
前者、つまり高く売ることは、基本的に無条件で歓迎される改善です。
一方で、後者の安く作る、特に原価低減活動を行っていないにもかかわらず原価率が下がっている場合には、注意が必要です。
スケールメリットが生む原価率の錯覚
製造業における製品一つあたりの原価は、一定期間に発生した製造コストを製造数量で割って算出します。
このとき、材料費のように製造数量に比例する費用は変動費、人件費など数量に関係なく一定の費用は固定費と考えます。
例えば、一定期間に30個製造した場合と、60個製造した場合を比べると、固定費は変わらないため、1個あたりの原価は低下します。
これがいわゆるスケールメリットです。
大量生産をすると個当たり原価が下がるため、原価率も改善して見えます。
売れていない在庫が利益を装う
問題は、作った分がすべて売れた場合だけとは限りません。
もし60個製造しても30個しか売れなかった場合、売上原価に計上されなかった残りの製品は、在庫として貸借対照表に残ります。
損益計算書だけを見ると、
- 原価率は下がっている
- 粗利額は増えている
という一見良好な数字になります。
しかし実態としては、売れていない製品が在庫として積み上がっているだけです。
この在庫が翌月以降に確実に売れるのであれば問題はありません。
しかし、売れ残りが長期化すれば、不良在庫となり、最終的には値下げや廃棄によって損失が顕在化します。
この時点で、過去に良く見えていた原価率改善は、単なる数字のマジックだったことが明らかになります。
原価率とセットで見るべき指標
原価率が改善しているにもかかわらず、
- 原価低減活動を行っていない
- 値上げもしていない
という場合には、製造数量が適切だったのかを検証する必要があります。
その際に必ず確認すべきなのが、貸借対照表の在庫残高です。
原価率の改善と同時に在庫が増えている場合、経営実態は必ずしも良くなっていません。
原価率は、損益計算書だけで判断せず、在庫の動きとあわせて立体的に見ることが重要です。
結論
たくさん作れば、原価率は確かに下がります。
しかし、それは必ずしも経営改善を意味するものではありません。
原価率が改善したときこそ、
- なぜ下がったのか
- 在庫は増えていないか
- その在庫は本当に売れるのか
を冷静に確認する必要があります。
原価率は経営の結果であり、目的ではありません。
数字の変化の裏側を読み取る視点こそが、経営判断には欠かせないと言えるでしょう。
参考
企業実務 2026年2月号
猫と学ぶ「経理力」の磨き方 第2話
たくさんつくって原価率改善や(?)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

