さらなる改革はどこへ向かうのか ― 高齢者医療費負担のこれから

FP

2025年10月から、75歳以上の「2割負担」が完全施行されました。これにより、一定の所得がある高齢者の負担は確実に増えることになります。しかし、これで医療制度の持続性が保証されたわけではありません。

医療費は膨張を続け、現役世代へのしわ寄せも限界に近づいています。そのため、専門家や業界団体からはさらなる改革が提案されています。今回はその中身を整理し、今後の方向性を考えてみましょう。


健保連が提案する見直し案

健康保険組合連合会(健保連)は2025年9月に、医療費の窓口負担を見直す提言を行いました。その柱は次の2点です。

  1. 年齢区分の5歳引き上げ
    • 現在:70~74歳=原則2割、75歳以上=原則1割
    • 提案:75~79歳=原則2割、80歳以上=原則1割へとシフト
    → 高齢者の就労が広がっている現状を踏まえ、「元気で働ける間は負担も応分に」という考え方です。
  2. 最終的には原則3割負担を目指す
    • 現在:3割負担は「現役並み所得者」のみ
    • 提案:将来的には高齢者も、原則として現役と同じ3割負担に近づける
    → もちろん低所得者への配慮や高額療養費制度は残しつつ、「支払い能力に応じた公平な負担」を徹底する狙いです。

OTC類似薬の保険外し

もうひとつの注目は「OTC類似薬」の扱いです。

OTCとは「Over The Counter」の略で、市販薬を指します。たとえば風邪薬や湿布など、市販で簡単に入手できる薬と同じ成分を含む処方薬があります。

これを保険から外し、「必要な人は市販薬で対応してもらう」方向に見直す案です。

  • メリット:保険財政の節約、受診抑制につながる
  • デメリット:薬代が全額自己負担になるため、医療費がかえって高く感じられる人も

ただし、この動きも「重い病気や大きなリスクにこそ公的保険を集中させる」という流れの一環といえるでしょう。


改革の本質 ― 軽度医療は自己負担、重度医療は手厚く

これらの改革案に共通しているのは、次の考え方です。

  • 軽度・日常的な医療(風邪、軽い腰痛、湿布やビタミン剤など)
    → 自己負担を増やす、あるいは市販薬に任せる
  • 重度・高額な医療(がん治療、入院、救急など)
    → 公的保険でしっかり支える

この切り分けによって、保険制度を持続可能にしながら、本当に必要な場面で国民を守る仕組みを維持しようというわけです。


生活者にとっての影響

これらの改革が実現すれば、生活者への影響は次のように現れるでしょう。

  • 働く高齢者にとって:70代後半まで医療費負担が重くなる可能性あり。ただし「収入があるなら負担も応分に」という考えは納得しやすい面も。
  • 慢性疾患で通院している人にとって:OTC類似薬の保険外しにより、薬代がかえって増えることも。ただしジェネリック医薬品の普及や市販薬の選択肢も広がる。
  • 全世代にとって:負担の線引きを明確にすることで、制度の持続性への安心感が増す。

制度改革をどう受け止めるか

高齢者にとって「負担が増える」と聞けば不安になるのは当然です。しかし、医療保険制度は「みんなで支え合う仕組み」であり、特定の世代に負担が集中すれば制度全体が崩れてしまいます。

改革の方向性を理解し、日常の健康管理や市販薬の活用を取り入れながら、制度と共に生きていく意識が求められているといえるでしょう。


まとめ

  • 健保連は、年齢区分を5歳引き上げ、最終的には高齢者も原則3割負担を目指す提案をしている。
  • OTC類似薬を保険から外す動きもあり、軽度医療は自己負担、重度医療は公的保険で守る流れが強まっている。
  • 改革は負担増を意味する一方で、制度を未来に残すための不可欠なステップ。
  • 「誰かのためにではなく、自分や子ども世代のために必要な改革」と考える視点が大切。

📖 参考

  • 日本経済新聞「医療保険の負担の改革をさらに進めよ」(2025年9月30日)
  • 健康保険組合連合会「医療制度改革に関する提言」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました