1. お金が「技術」になる時代
2025年の金融政策と制度改革は、ひとつの方向に収束しつつあります。
それは――
「お金をデジタル技術として再設計する」という流れ。
かつては紙幣や硬貨が「物理的価値」を持っていました。
今、お金はデータになり、コードで管理される存在へと進化しています。
銀行による仮想通貨保有の解禁、ステーブルコインの発行、そしてCBDC(中央銀行デジタル通貨)の実証。
これらは単発のニュースではなく、金融システム全体を再構築する壮大な改革の一部です。
2. 3つのプレイヤーが描く「通貨の覇権」
通貨の未来をめぐる主役は、次の3者に集約されます。
| 主体 | 目的 | 主な戦略 |
|---|---|---|
| 銀行 | 預金の維持・金融機能の再定義 | ステーブルコイン発行・仮想通貨取引解禁 |
| フィンテック企業 | 取引コスト削減・新市場開拓 | 即時送金・ブロックチェーン決済プラットフォーム |
| 中央銀行(政府) | 通貨主権・金融安定性 | CBDC導入・規制整備・国際協調 |
この三者は「競争」と「協調」を繰り返しながら、
“お金の信頼”を誰が担うかという根本的な問いに挑んでいます。
3. 銀行 ― 信頼の再構築を賭けた挑戦
金融庁が銀行グループの仮想通貨参入を認める方針を示した背景には、
「銀行の存在意義を再定義する」という狙いがあります。
かつて銀行の強みは「信用仲介」「預金」「決済インフラ」でした。
しかし、スマホ決済やブロックチェーン技術の普及によって、
これらの機能は非銀行(ノンバンク)やフィンテック企業にも代替可能になりつつあります。
今、銀行が目指すのは――
「預金」ではなく「デジタル資産管理業」へ。
「店舗」ではなく「プラットフォーム」へ。
銀行がステーブルコインを発行・管理することは、
単なる新ビジネスではなく、銀行業そのものの再定義なのです。
4. フィンテック企業 ― 技術と速度で攻める
一方、フィンテック企業は「軽さ」と「スピード」で攻勢をかけています。
ブロックチェーンを活用した即時送金や、API連携によるリアルタイム決済など、
従来の金融機関が時間をかけてきた手続きを一瞬で完結させる仕組みを構築しています。
特に注目すべきは、ステーブルコインを活用した新型決済網。
JPYCやGMO-Z.comなどの事業者は、国境を越えた資金移動や少額決済の分野で急拡大中です。
今後は、
- 銀行:信頼・監督・安定性
- フィンテック:技術・スピード・UX(顧客体験)
という住み分けが進み、両者の連携モデル(BaaS:Banking as a Service)が主流となるでしょう。
5. 中央銀行 ― 「通貨主権」を守る最後の砦
中央銀行がCBDCを発行する背景には、明確な危機感があります。
それは「通貨主権」の揺らぎです。
もし民間発行のステーブルコインが広く流通すれば、
中央銀行がコントロールできない「準通貨経済」が生まれ、
金融政策(利上げ・量的緩和など)の効果が弱まる可能性があります。
日本銀行はこの点を強く意識し、
CBDCを「最終清算通貨」として位置づけ、
民間通貨との共存を前提に制度設計を進めています。
欧州中央銀行(ECB)の「デジタルユーロ」では、
個人保有上限を3,000ユーロに制限するなど、預金流出リスクに備える設計が導入予定。
日本も同様に「小口・決済中心型CBDC」が想定されています。
6. グローバル視点 ― 通貨が国境を越える時代へ
世界の潮流を見れば、
米国・欧州・中国がそれぞれ通貨デジタル化の主導権争いを展開しています。
- 🇺🇸 米国:民間主導(USDC・PayPal USDなど)+「ジーニアス法」で法整備
- 🇪🇺 欧州:ECB主導のデジタルユーロ構想
- 🇨🇳 中国:デジタル人民元を既に大規模運用中(都市交通・給与支給にも利用)
このように、デジタル通貨は単なる金融技術ではなく、
外交・安全保障・通貨覇権を左右するインフラ
として各国が競い合う領域になっています。
日本が取り組む「民間×中央の共存モデル」は、
この国際潮流の中で“調和型”の第三の道として注目されています。
7. 税・法務・監査のプロフェッショナルが果たす役割
デジタル通貨が経済全体に広がると、
税理士・会計士・FPの役割も確実に変化します。
- 取引の瞬間に課税・会計処理が発生する
- ウォレット単位で資産・相続・贈与が管理される
- AIとブロックチェーンが税務調査や監査を補完する
つまり、「お金の記録」そのものがリアルタイムで可視化される時代になります。
専門家に求められるのは、ルールを解釈する力ではなく、ルールを設計する力です。
8. 結論 ― “お金の未来”はすでに始まっている
デジタル通貨の波は、もう後戻りできません。
紙幣の減少、ネットバンキングの常態化、スマホ決済の普及。
その延長線上に、ステーブルコインとCBDCが存在します。
銀行・フィンテック・中央銀行――
それぞれの思惑が交錯しながらも、目指すゴールは共通しています。
「信頼できるお金を、より速く、より安全に、より誰でも使えるように。」
この変化を読み解き、仕組みを理解し、
顧客や社会にわかりやすく伝えること。
それこそが、これからの税理士・FP・会計人の使命ではないでしょうか。
出典・参考
- 「仮想通貨、銀行系に解禁」日本経済新聞(2025年10月22日)
- 「ステーブルコイン『銀行預金を一部代替も』」日本経済新聞(2025年10月22日)
- 日本銀行「CBDCに関する実証報告」
- 金融庁「金融審議会 作業部会資料」
- 欧州中央銀行(ECB)デジタルユーロ報告書
- 米国ジーニアス法(Stablecoin Regulation Act)関連公表資料
📘<シリーズまとめ>
- 第1回:銀行に仮想通貨解禁 ― 新時代の資金運用構造
- 第2回:銀行の仮想通貨参入 ― 税・法務・リスク管理
- 第3回:ステーブルコインとCBDCの共存戦略
- 第4回:実務対応編 ― 会計・税務・監査の新常識
- 第5回(本稿):“お金の未来”をめぐる攻防 ― 銀行・フィンテック・中央銀行の戦略地図
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
