AIの進化によって、領収書の仕分けや会計処理は驚くほど簡単になりました。スマホで撮影するだけで、AIが文字を読み取り、費目を判断し、会計データに自動反映する仕組みが一般化しつつあります。
しかし、どれだけ便利になっても「税務上の保存義務」から逃れられないのが、帳簿書類の管理です。近年、電子帳簿保存法(電帳法)が改正され、電子保存に関するルールが整備されましたが、その内容は一般の利用者にとってわかりにくく、誤解も多いのが現状です。
本記事では、AI活用が広がる今こそ知っておきたい「電帳法の基本」と「AI時代の正しい領収書管理」について、一般向けにやさしく整理します。
1.AIが領収書管理を“劇的に簡単”にした
これまで領収書やレシートは、
- 紙を保管し続ける
- 月末や確定申告時にまとめて入力
- 経費の分類も自分で判断
といった作業が必要でした。
AIはこの流れを大きく変えました。
● AIによる変化
- スマホで撮影→自動読み取り
- 内容から費目を判断→自動仕分け
- クラウドに保存→検索も簡単
- 紙の整理作業がほぼ不要
結果として、領収書管理の「手間・時間・ストレス」は大幅に軽減されました。
しかし、便利になった一方で重要なのが、「AIで読み取ったからといって保存義務がなくなるわけではない」という点です。
AIに任せても“保存ルール”が守られていなければ、税務調査の際に問題が生じる可能性があります。
2.電子帳簿保存法(電帳法)の基本
電帳法は、帳簿・書類を紙ではなく電子で保存するルールを定めた法律です。
といっても、複雑な条文をすべて理解する必要はありません。
実務で押さえるべきポイントは次の3つです。
3つの柱
(1)電子帳簿等保存
会計帳簿などを電子のまま保存してよいというルール。
(2)スキャナ保存
紙の領収書をスキャンして電子データにして保存できるルール。
(3)電子取引データ保存
メールやアプリなどで受け取った電子データは「紙に印刷して保存」は不可で、電子のまま保存しなければいけないというルール。
AIと関係するのは主にこの②と③です。
3.AI活用でよくある5つの誤解
AIが領収書を読み取り、クラウドに保存していると、「もう紙を捨ててもいいのでは?」と考える人が増えていますが、それは一部誤りです。
以下、誤解しやすいポイントを整理します。
【誤解①】AIが読み取ったら紙の領収書は捨ててよい
→ 正しくは:スキャナ保存の要件を満たさないとNG
スキャナ保存を認めるためには、
- 改ざんできない形で保存
- 解像度など一定のルール
- 撮影後すぐの保存(タイムスタンプ等の要件)
など、条件を満たす必要があります。
会計ソフトが自動対応していれば問題ありませんが、
「ただ写真フォルダに保存しているだけ」
では要件を満たしません。
【誤解②】AIが費目分類したデータだけ保存すればよい
→ 正しくは:原本データの保存が必須
AIが仕分けした内容は“会計処理”の結果であり、領収書そのものの代わりにはなりません。
【誤解③】電子明細は印刷すれば保存したことになる
→ 正しくは:電子データのまま保存が必須
Amazonや楽天の領収書、カード明細などは電子取引に該当します。
紙に印刷するだけでは法令違反になります。
【誤解④】AIに任せれば整理しなくてよい
→ 正しくは:検索性の確保は必要
電帳法では
- 日付
- 金額
- 取引先
などを条件に「検索できる状態」で保存する必要があります。
AIや会計ソフトの機能を利用して、検索性が担保されているか確認が必要です。
【誤解⑤】AIで読み取ったら内容チェックは不要
→ 正しくは:読み取りミスは起こり得る
AIでも、
- 金額の読み間違い
- 日付の誤認識
- 店舗名の読み取りズレ
などが発生することがあります。
保存はAIに任せつつ、確認は人が行うというバランスが求められます。
4.AIを活用した“正しい領収書管理”のポイント
(1)電子保存の要件を満たしているか確認する
利用している会計ソフト・アプリが、
- 速やかな保存
- 改ざん防止機能
- タイムスタンプ対応
にあたる仕組みを満たしているかチェックしましょう。
大手クラウド会計ソフトは基本的に要件を満たしていますが、念のため確認が必要です。
(2)紙の領収書はすぐ撮影 → 捨てるかどうか判断
スキャナ保存要件を満たす場合は紙を破棄できますが、
満たさない場合は紙原本が必要です。
レシートは早めに撮影し、
- AIに読み取らせる
- 電帳法対応フォルダに保存
という流れを習慣化すると安全です。
(3)電子取引データは必ず電子のまま保存
ネット通販や電子領収書は、
- JPEG
- メール保存
などの形で電子ファイルを保存します。
AIが取り込んでくれる場合は、会計ソフト側で問題なく保持できます。
(4)月に一度は読み取り内容を見直す
AIの誤読み取りは一定数あります。
特に注意が必要なのは、
- 金額
- 日付
- 税区分(軽減税率など)
です。
毎月確認しておくことで、確定申告時の手戻りが大幅に減ります。
5.AI×電帳法は「経理の手間を減らす最強の組み合わせ」
電帳法は一見ハードルが高く見えますが、実際にはAIと非常に相性が良い制度です。
● AIによって可能になること
- 書類の紛失防止
- 検索性の向上
- 紙の保管スペース削減
- 日付・金額・相手先の自動抽出
- スキャン漏れ防止のアラート
- 電子保存の一元管理
AIを活用するほど、電帳法対応は“自然にできる”状態に近づいていきます。
紙で管理するよりも、
AI+クラウド保管の方がミスが少なく、
税務調査時にも書類をすぐ提示できるなど、メリットは非常に大きいといえます。
結論
AIのおかげで、領収書管理は以前よりもはるかに簡単になりました。しかし、どれだけ便利になっても、電帳法に基づく「保存のルール」は守らなければなりません。
保存要件を理解し、
- AIが得意な部分は任せる
- 誤解しやすい部分はしっかり理解する
- 最終的な確認は人が行う
というバランスをとることで、AI×電帳法のメリットを最大限に活かすことができます。
AIは手間を減らし、電帳法は管理の品質を高める。
この二つの組み合わせは、これからのスモールビジネスにとって欠かせない基盤となっていくでしょう。
参考
・国税庁「電子帳簿保存法に関する公開資料」
・日本経済新聞「AIエージェントで確定申告支援」(2025年12月3日)
・会計ソフト各社の公開情報
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
