高市早苗新総裁が掲げる「責任ある積極財政」は、アベノミクスの継承か、それとも新たな現実路線か。株式市場の反応、物価・金利リスク、そして今後の成長戦略まで、一緒に確認したいと思います。
はじめに:株式市場が沸いた「高市トレード」
2025年10月上旬、自民党新総裁に高市早苗氏が選出されました。
その翌営業日、東京株式市場は一気に動き、日経平均株価は前週末比2175円高の4万7944円と史上最高値を更新。
財政拡張に前向きな姿勢を市場が好感した一方で、
麻生太郎最高顧問や鈴木俊一氏ら「財政規律派」の要職起用も伝わり、
「財政のタガが外れすぎない」との安心感も広がりました。
つまり、今回の株高は「単なるお祭り」ではなく、
積極財政と現実路線のバランスに対する評価が背景にあります。
アベノミクスの継承?それとも新たな路線?
アベノミクスとは何だったのか
2012年に始動したアベノミクスは、
- 大胆な金融緩和
- 機動的な財政出動
- 成長戦略(構造改革)
という「三本の矢」で構成されました。
当時の日本はリーマン・ショックや東日本大震災を経て深刻な需要不足に陥っており、
内閣府の推計では2012年10〜12月期の需給ギャップがマイナス2.3%。
デフレからの脱却が最大の課題でした。
現在の日本経済との違い
2025年現在、状況は大きく異なります。
需給ギャップはプラス0.3%へと改善し、
経済は「需給均衡」に近づいています。
つまり今の日本は需要不足ではなく供給制約の時代。
同じ「積極財政」でも、デフレ期のアベノミクスをそのまま再演すれば、
物価高と金利上昇を同時に招くリスクがあります。
英エコノミスト誌も「インフレ時代の現実に直面する」と指摘しています。
積極財政の裏に潜むリスク
「純債務残高」という新しい指標
高市氏は総裁選で「必要なら国債発行もやむを得ない」と発言しました。
注目すべきは、財政健全化の指標として「対GDP純債務残高」を重視している点です。
- 日本の総債務残高:GDP比240%
- 純債務残高:136%(2023年時点)
この数字の差を強調することで、
「まだ財政余地がある」と印象づける効果があります。
ただし、純債務で見てもG7の中で最悪水準であり、慎重な運営が求められます。
金利上昇と円安圧力の懸念
国債発行が増えれば、金利上昇リスクが意識されます。
さらに、円安が進行すれば物価上昇が長引く恐れも。
10月下旬に予定されるトランプ米大統領の来日では、
「円安誘導」とみなされるリスクもあり、外交面でも微妙な調整が必要です。
成長のカギは「供給力の強化」にある
潜在成長率はむしろ低下
内閣府の推計によると、
潜在成長率は25年4〜6月期で0.6%。
アベノミクス初期(0.7%)を下回っています。
少子化の影響で生産年齢人口は10年前より600万人以上減少。
今、日本経済が抱える本質的な課題は供給力の低下です。
高市氏の「危機管理投資・成長投資」
高市氏は著書で、
- 食料安全保障
- エネルギー自立
- 半導体・AIなど先端産業
への投資を「危機管理投資・成長投資」と位置づけています。
短期的な給付金や減税ではなく、
中長期的に生産性を引き上げる政策が問われています。
この“実行力”こそが、新政権の最大の試金石です。
市場が求める「現実路線」とは
市場が参考にするのは海外の事例です。
- イギリスのトラス政権:大胆な減税で「トラス・ショック」を招く
- イタリアのメローニ政権:極右出身ながら現実路線に転じ、格付け上昇
高市政権がこの「現実路線」を選べるかどうかが焦点です。
UBSの青木CIOは「政治の決断力回復への期待が株高を支えた」と述べる一方、
明治安田アセットの伊藤氏は「政策運営の実現性には不透明感が残る」と指摘。
市場も“期待と懐疑の両方”を抱きながら、新政権の舵取りを見守っています。
税理士・FPとしての視点
財政×金利×物価のトライアングルを読む
税理士やFPの立場から見ると、
今後の焦点は「財政拡張と金利動向のバランス」にあります。
- 金利上昇 → 住宅ローン負担・企業借入コスト増
- インフレ継続 → 家計実質所得の圧迫
- 財政出動 → 景気・株価上昇の一因
つまり、政策の舵取りが個人と企業の資金繰りに直結します。
資産形成や投資助言の現場でも、
マクロ経済と政策の関係を読み解く力がこれまで以上に求められるでしょう。
まとめ:アベノミクス再演ではなく「高市ノミクス」へ
- 高市政権は「アベノミクスの継承+現実的修正」のハイブリッド路線
- デフレ期とは異なる“インフレ環境”での政策運営がカギ
- 成長の源泉は需要刺激ではなく供給力強化
- 税理士・FPは金利・物価・財政の動向を踏まえたアドバイスが必要
松下政経塾出身の高市氏は、
松下幸之助の言葉「君子豹変す」を好んで引用します。
時代に応じて政策を変えられる柔軟性を発揮できるか――。
アベノミクスの再来ではなく、
“日本の新しい経済モデル”を築けるかどうか。
その答えは、これからの政策運営にかかっています。
出典・参考
出典:2025年10月7日 日本経済新聞朝刊
(「積極財政に物価・金利の壁」「第2次安倍政権以降の経済」「アベノミクス」「高市株高 現実路線に期待」より)
💡関連記事
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
