毎年11月になると、会社から配られる年末調整の書類の山。
「名前とマイナンバーを書いて」「保険証明書を貼って」「印鑑を押して」――
この作業を思い浮かべる人は多いでしょう。
ところが近年、国税庁が進める「電子化」により、年末調整の形が大きく変わりつつあります。
紙をなくし、マイナンバーを活用しながらデータで処理する時代が始まっています。
💡 1. 年末調整の“電子化”とは何が変わるのか
電子化の目的は、ずばり「手間の削減とミスの防止」です。
これまでは、従業員が紙で申告書を記入し、経理担当が内容を転記して入力していました。
この手作業が多いほど、計算ミスや書類の紛失リスクが高まります。
電子化後は、
- 従業員がパソコンやスマホから直接入力
- 控除証明書をデータで自動取り込み
- マイナポータルと連携して情報を一括管理
といった仕組みが整い、作業が大幅に効率化されます。
🧾 2. マイナポータル連携とは? ― 証明書を自動取得できる仕組み
マイナポータルとは、政府が運営する個人専用の行政サービスサイトです。
このサイトを通じて、保険会社や国民年金基金、住宅ローンの金融機関などから
控除証明書データを自動で取得できるようになりました。
🔹 対応している控除証明書の例
- 生命保険料控除証明書(生命保険会社から)
- 地震保険料控除証明書
- iDeCo掛金払込証明書(国民年金基金連合会から)
- 住宅ローン残高証明書(銀行などから)
これらのデータをマイナポータルで一括取得し、
年末調整ソフトに自動反映できる仕組みです。
紙の提出が不要になり、書き写しミスも防げます。
💬 ポイント:マイナポータル連携を使うには、
マイナンバーカードとパスワード(またはマイナポータルアプリ)の利用登録が必要です。
💻 3. 「年末調整ソフト」と企業側の変化
国税庁は無料で使える「年末調整ソフト」を提供しています。
このソフトを使うと、マイナポータルから取得した控除証明データを自動で読み込み、
会社へ電子データとして提出できるようになります。
また、民間のクラウド給与システム(マネーフォワード・弥生・freeeなど)も
同様の電子申告機能に対応しており、
従業員がスマホで入力→経理がオンラインで承認、という流れが一般的になりつつあります。
💡 企業側のメリット
- 書類配布・回収・保管のコスト削減
- 入力ミスの自動チェック機能で確認作業が簡略化
- 電子保管によるペーパーレス化とセキュリティ強化
💬 注意点:電子データを扱うため、会社には個人情報保護とアクセス権限の管理体制が求められます。
🔐 4. マイナンバーとセキュリティの基本ルール
電子化が進むほど、「マイナンバーの管理」はより重要になります。
特に経理・人事担当者は次のルールを押さえておきましょう。
- マイナンバーは年末調整や源泉徴収票の作成目的以外では使用しない
- 取得・利用・廃棄の各段階でアクセス権限を限定する
- 電子データを扱う場合は、暗号化とパスワード管理を徹底する
従業員がマイナポータルを利用する場合も、
「会社が個人情報を覗くことはない」という点を説明しておくと安心感につながります。
🧮 5. 電子化への移行スケジュール
| 年度 | 電子化の主な進展 | 状況 |
|---|---|---|
| 2021年~ | 年末調整ソフトの提供開始 | 試験運用段階 |
| 2022~2023年 | マイナポータル連携の対象拡大 | 保険・iDeCo・住宅ローン対応 |
| 2024~2025年 | 民間クラウドとの連携本格化 | 多くの企業が電子申告へ移行中 |
| 2026年以降 | 書面提出を原則廃止の方向で検討 | ペーパーレス年末調整が標準化へ |
💬 ポイント:2025年は「電子化移行の過渡期」。
紙でもデータでもOKですが、今後は完全デジタル化が主流になります。
✏️ 6. まとめ ― 「手書きの時代」から「データの時代」へ
年末調整は、単なる事務処理ではなく、
税制とテクノロジーの変化を象徴する“行政デジタル化の入口”です。
これまで面倒に感じていた
「書類の記入」「証明書の整理」「提出忘れ」も、
電子化によって少しずつ解消されていくでしょう。
2025年は「紙もデータも両方OK」の移行期。
マイナポータルやクラウドシステムを上手に活用し、
“紙を減らしてミスを減らす”スマートな年末調整を目指しましょう。
出典:国税庁「令和7年版 年末調整のしかた」
「年末調整ソフトウェア(国税庁提供)」・総務省マイナポータルガイド
『企業実務』2025年8月号「年末調整に向けた『基礎控除の見直し等』『特定親族特別控除』の準備実務」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
