離婚は、感情面だけでなく生活全般に大きな影響を与える重大なライフイベントです。離婚前後には、別居、調停、財産整理、子どもの養育、住まいの確保、収入の見直しなど、数えきれないほどの「決めるべきこと」が発生します。そのなかでも、もっとも大きな不安の一つが「お金」に関する問題です。本シリーズでは、離婚時に必要な費用、婚姻費用、財産分与、慰謝料・養育費、離婚後の生活設計までを体系的に整理しました。本稿では、それらを横断的にまとめ、離婚を検討する人が全体像をつかめるよう、重要ポイントを5つの視点から整理します。
1 離婚時のお金は「3つに分類」して理解する
離婚に関わるお金は、次の3つに大別できます。
- 離婚時に必要な費用
- 離婚前後の生活費(婚姻費用)
- 相手から受け取れる可能性があるお金(慰謝料・養育費・財産分与など)
この分類で全体像を整理すれば、自分に必要な準備や、優先すべき手続きが明確になります。
● 離婚時に必要な費用
別居の引っ越し費用、家具・家電の購入費、調停・裁判に移行した場合の手続き費用、弁護士費用などが含まれます。
● 生活費(婚姻費用)
別居後も法律上の婚姻関係が続く限り、収入の多い側が少ない側に生活費を支払います。請求した時点からしか発生しないため、早めの手続きが重要です。
● 受け取れる可能性があるお金
慰謝料、養育費、財産分与、年金分割など、離婚後の生活の柱となるお金です。
2 別居と婚姻費用 —— 別居直後の生活を安定させる
別居は、離婚のプロセスにおいて大きなターニングポイントです。
● 婚姻費用は「請求した日」から
別居を開始すると、生活費の負担が大きくなりがちです。しかし、婚姻費用は請求日以降でなければ支払われないため、別居を決意したら速やかに請求を進めることが大切です。
● 金額は裁判所の算定表が基準
双方の収入、子どもの人数、年齢などの条件によって決まるため、基準を確認したうえで話し合いを進めましょう。
● 別居の原因によっては減額される
不貞行為やDVなど、別居の原因を作った側の請求が減額・不支給と判断される可能性があります。この点は個別事情で判断されるため、調停を利用する場合もあります。
3 財産分与 —— 離婚後5年以内に請求する
財産分与は、婚姻期間中に形成された財産を公平に分ける制度です。
● 2024年民法改正により請求期限が延長
重要なポイントとして、令和の法改正により、請求期限が「離婚後2年 → 5年」に延長されました。
● 夫婦の寄与に差がなければ原則2分の1
名義がどちらであっても、婚姻期間中に築いた財産は共有財産とみなされます。専業主婦(夫)でも半分を請求できるという考え方があらためて明文化されました。
● 住宅ローン・ペアローンは要注意
不動産とローンの整理はトラブルが多い分野です。
特にペアローンは「離婚したから解消」という扱いができないため、単独ローンへの借り換えや持分調整など、専門的対応が求められます。
4 慰謝料・養育費 —— 取り決めは離婚前が基本
慰謝料と養育費は目的が全く異なり、制度も異なります。
● 慰謝料
不貞行為、DVなど相手の不法行為が理由で精神的苦痛が認められた場合に請求できます。
● 養育費
子どもの食費、衣服費、教育費など、生活を支えるための費用です。
養育費の請求は子どもの権利であり、受け取る側の親が請求します。
● 2024年法改正により強化された点
- 離婚時に取り決めがなくても請求できる「法定養育費」制度
- 私的合意でも強制執行しやすくなった新ルール
- 住所調査・収入調査の効率化
これらの改正により、養育費の不払いが発生しにくい仕組みが整備されています。
● 強制執行の重要性
公正証書や調停調書があれば、給与差押えなどの強制執行が可能です。
支払いを確実にするには「書面化」が欠かせません。
5 離婚後の生活設計 —— 住まい・収入・支援制度を整える
離婚はゴールではなく、「新しい生活のスタート」です。
● 住まいの確保
持ち家に住み続けるのか、賃貸に移るのか、一時的に実家を頼るのか。
家賃は家計の大部分を占めるため、離婚後の安定には早めの判断が不可欠です。
● 収入の確保
職場の継続、転職、パートからの再スタートなど、働き方を整えることが生活安定の中心となります。
● 公的支援制度
自治体には次のような支援制度があり、離婚後の生活を支える大きな助けになります。
- 児童扶養手当
- 医療費助成
- 就学援助
- 母子生活支援施設
- 職業訓練・就労支援
制度は自治体ごとに異なるため、離婚前に情報を集めることが重要です。
結論
離婚に伴うお金の問題は、生活の安定に直結する重要なテーマです。離婚時の費用、婚姻費用、財産分与、慰謝料・養育費、離婚後の生活設計といった複数の視点から総合的に準備することで、離婚後の不安を大幅に減らすことができます。本シリーズを通じて、離婚前から離婚後までの流れを体系的に理解し、必要な対策を早めに講じることが、自分自身と子どもの未来を守ることにつながります。今後も生活の変化に合わせて情報を更新しながら、安心できる生活基盤を構築していくことが大切です。
出典
・日本FP協会コラム(婚姻費用・財産分与・慰謝料・養育費・離婚後の生活設計)
・2024年民法・家事事件手続法改正(財産分与・養育費関連)
・家庭裁判所「算定表」等実務資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
