急激な円安が進むと、「もっと外貨を増やすべきでは」「今のうちにドルを買っておいたほうがいいのでは」といった相談が増えます。しかし、為替は短期的には読めず、円安・円高が交互に起きるのが現実です。本稿では、家計が長期的に安定した資産形成を行うために、どれくらい外貨資産を持てばよいのか、外貨の比率をどう決めるかという実践的な視点を整理します。
● 外貨資産を持つ理由は「円安で得をする」ではない
外貨資産を持つ最大の目的は為替差益ではなく、通貨分散によるリスク管理です。
- 円安:円の価値が下がる → 外貨資産の価値が相対的に上昇
- 円高:円の価値が上がる → 外貨資産の評価は下がるが、輸入物価が下がり生活が安定
どちらの局面が来ても「資産全体のリスクを平準化する」ことこそ外貨の役割です。
● (1)外貨資産比率の考え方:結論は「人によって違う」
一般的には次のような基準があります。
○ 20代〜40代(長期投資が中心)
外貨資産比率 30〜50% が目安
- 株式インデックス投信(全世界・米国)を保有する場合
- 積立NISA(新NISA成長投資枠)の比率が高い場合
実質的に外貨資産が多くなるため、追加の外貨購入は慎重に行います。
○ 50代〜60代(リタイア前の安定重視)
外貨資産比率 10〜30% が目安
- 為替変動の影響を受けすぎないようバランス調整
- 退職金を見据え、資産のブレを小さくしたい人が多いステージ
○ 70代〜(資金取り崩し期)
外貨資産比率 10〜20% 程度
- 円高に振れても生活に直結する支出は円で行うため
- 過度な為替リスクを避けるのが合理的
あくまで一般的な目安であり、収入・支出・生活防衛資金の有無で最適比率は変わります。
●(2)「既に外貨を持っているか」を最初に確認する
外貨比率を考える際に見落としやすいのは、外貨建ての投資信託や米国株をどれくらいすでに保有しているかです。
たとえば…
- 全世界株インデックス(約60%が米国株)
- S&P500投信
- 外貨建て保険
- 外貨預金
これらはすべて外貨資産としてカウントします。
→ 実際には「もう外貨資産が40〜60%ある」人が多い
積立NISA・新NISAの普及により、外貨資産を意識せず自然に保有しているケースが増えています。
●(3)外貨資産は「段階的に」増やすのが基本
為替は読めないため、一度に大きな金額を外貨へ移すのはリスクが高くなります。
○ 具体的な方法
- 外貨積立(毎月1万円〜)
- 米国株・海外投資信託の定期買付
- 円高のタイミングで少額追加購入
- 外貨預金より投信のほうが手数料面で有利なことが多い
外貨比率は「一気に増やす」のではなく、「少しずつ適正比率へ寄せる」のが長期投資に向いています。
●(4)外貨資産を増やしすぎると起きるリスク
円安だからと外貨を増やしすぎると、次のリスクが生じます。
- 円高局面で資産評価が大きく下落する
- 老後や教育費など円で必要な資金が不足する
- 外貨比率が偏り、逆にポートフォリオが不安定になる
- 日本の物価が落ち着いた時に為替変動の恩恵を受けにくい
「外貨比率を増やす」よりも、「外貨比率を適正化する」ことが重要です。
●(5)外貨比率を決める4つのチェックポイント
外貨比率を決める際は次の4つを必ず確認します。
① 生活防衛資金はあるか
3~6カ月分の生活費は円で確保。そのうえで外貨比率を考えます。
② 将来の支出は円か、外貨か
留学・海外移住など外貨支出がある場合は外貨比率を高めるのが自然です。
③ 既存の外貨建て投信の割合
見落としがちな最大のポイントです。
④ 心理的に耐えられる価格変動幅
外貨資産は評価額が上下しやすく、精神的な許容範囲も人によって異なります。
●(6)「円高・円安のどちらにも強い」比率とは?
一般的に、次のゾーンが「バランスが良い」とされます。
○ 外貨資産比率 20〜40%
- 円安になれば外貨資産が守ってくれる
- 円高になれば生活コストが下がり、円資産の価値が守られる
- ポートフォリオが極端に偏らない
- 長期投資ではもっとも安定しやすい領域
ただし、この比率は「平均解」であり、最適解は個々の生活・価値観によって変わります。
結論
家計における外貨資産の役割は、為替差益を狙うことではなく、資産全体のリスクを分散することにあります。外貨比率は年齢・目的・支出構造によって大きく異なり、一般的には20〜40%の範囲で調整するケースが多く見られます。既に保有する外貨建て投信の割合を正確に把握し、段階的に外貨比率を整えていくことが、長期的な安定につながります。円安・円高どちらの局面でもぶれない家計をつくることが、資産形成の最大のポイントです。
出典
日本経済新聞「想定為替レート、企業145円」(2025年11月)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
