――安心を得るためにいくら必要か?
これまでの回で、福祉サービス、任意後見、死後事務委任契約、遺言・信託といった制度を紹介してきました。
しかし、実際に読者が最も気になるのは「結局、どれくらいお金がかかるのか」という点ではないでしょうか。
安心を得るには制度の理解だけでなく、費用を数字でイメージしておくことが大切です。ここでは、公的サービスから民間サービスまで、制度別の費用感を整理し、さらに資産規模別のケーススタディで検討していきます。
公的サービス利用モデル
まず、最もコストを抑えられるのは「公的サービス」の活用です。
- 日常生活自立支援事業(社協)
利用料:1回1,200円程度
月2回利用 → 年間約3万円 - 公的補助
国や自治体が社協へ最大600万円の補助を行うため、利用料は低額で安定しています。 - 対象範囲
生前の金銭管理やサービス契約のサポートが中心。死後事務は含まれません。
👉 公的サービスだけで最低限の安心を確保するなら、年間数万円規模 で利用可能です。
民間サービスモデル
次に、手厚い支援を求める場合に利用されるのが民間サービスです。
- 高齢者等終身サポート事業
契約時の預託金:200万円前後
管理費:数万円/年 - サービス内容
入退院手続き、葬儀・納骨、死後の清算まで一括対応。
ただし、利用できるのは「資金に余裕がある層」に限られます。
👉 手厚い安心と引き換えに、初期費用200万円+管理費 が必要になります。
任意後見+死後事務委任モデル
「生前の安心」と「死後の手続き」を両方カバーする現実的な組み合わせです。
- 任意後見契約
公証役場手数料:数万円
後見監督人報酬:月2〜3万円(年間30万円前後) - 死後事務委任契約
契約書作成費用:数十万円
受任者報酬:数十万円〜
実費(葬儀・納骨など):100〜200万円
👉 合計すると、初期費用50〜100万円+年間30万円+死後実費 が目安です。
遺言+信託モデル
財産の承継まで視野に入れる場合には、遺言や信託を組み合わせます。
- 公正証書遺言
作成費用:数万円〜数十万円(財産額により変動) - 家族信託
契約書作成費用:数十万円〜
登記費用や専門家報酬:数十万円〜
👉 相続規模や財産の種類に応じて、トータルで100〜300万円程度 のコストがかかることもあります。
ケーススタディで考える
ケース1:資産3,000万円未満(独居・相続人あり)
- 公的サービス(社協):年間3万円
- 公正証書遺言:10万円程度
👉 年間数万円+初期10万円程度で最低限の安心を確保可能
ケース2:資産3,000万円〜1億円(独居・相続人なし)
- 任意後見契約:初期費用5万円+年間30万円
- 死後事務委任契約:契約+実費150万円程度
- 遺言(遺贈寄付など):10万円〜
👉 トータルで数百万円規模の準備が必要
ケース3:資産1億円以上(独居・複雑な資産構成)
- 任意後見+死後事務委任
- 公正証書遺言+家族信託
- 専門家報酬を含めて、トータルで500万円規模 の設計もあり得る
👉 高額な資産の場合、費用は投資と考え、相続トラブル防止や節税効果で回収可能
税理士・FP視点:費用対効果をどう考えるか
制度や契約にはコストがかかります。しかし、これは「支出」ではなく「安心を買う投資」と考えるべきです。
- 公的サービス → 最低限の安心を低コストで確保
- 民間サービス → 手厚い安心と引き換えに高コスト
- 任意後見+死後事務委任 → バランス型で現実的
- 遺言+信託 → 相続設計まで含めたフルカバー
税理士やFPとしては、読者の資産規模・家族構成・価値観に応じて「最適な組み合わせ」を提案することが大切です。
まとめ
独居高齢者が安心して暮らすには、制度の理解+費用感の把握 が欠かせません。
- 公的サービスなら数万円で利用可能
- 民間サービスは200万円前後のまとまった資金が必要
- 任意後見や死後事務委任は数十万〜数百万単位の準備が必要
- 信託まで組み合わせると数百万円規模の設計になる
「いくら払うか」ではなく「どの安心を得たいか」で選ぶことが、人生100年時代の賢い選択といえるでしょう。
シリーズを終えて
全5回を通じて、独居高齢者の安心を支える制度を整理しました。
- 公的サービスの制度改正
- 任意後見制度
- 死後事務委任契約
- 遺言と信託
- 費用試算とケーススタディ
老後・相続の安心は「点」ではなく「線」で考える必要があります。税理士・FPとしては、制度を単発で紹介するのではなく、組み合わせたトータル設計を提案することが、これからますます求められるでしょう。
(参考 2025年9月11日付 日経新聞朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

