円安の進行は大企業だけでなく、多くの中小企業にも直接的な影響を与えています。輸入コストの増加、価格転嫁の難しさ、海外顧客からの値下げ要求など、為替変動は利益を大きく揺るがします。第4回では、中小企業が実務で押さえるべき為替リスク管理の基本と、すぐに取り組める対策を整理します。
● 中小企業が抱える為替リスクは「想像以上に大きい」
中小企業の多くは次のような構造的な弱点を抱えています。
- 輸入原材料・部品への依存度が高い
- 価格転嫁がしにくい(取引先が強い)
- 在庫負担が重く、資金繰りの余裕が小さい
- 為替予約などの金融知識にアクセスしにくい
このため、急激な円安が起きると予想以上に利益が圧迫され、「黒字倒産」に近いリスクが高まります。経営の安定には、為替リスクの見える化と管理が欠かせません。
● (1)まずは「為替感応度の把握」から
大企業と同様に、中小企業でも為替感応度の把握は最初のステップです。
○ 把握すべきポイント
- 1円の円安(または円高)で仕入原価がいくら変わるか
- 月次の輸入金額・外貨支払額はいくらか
- 売上に外貨建て部分があるか
- 外貨預金や海外投資があるか
Excelやクラウド会計を使えば、月次の外貨取引額はすぐに集計できます。
○ 感応度の把握が重要な理由
- 赤字化ラインが把握できる
- 販売価格の見直しタイミングが分かる
- 経営判断(値上げ・資金確保・在庫戦略)の速度が上がる
感応度を数字として可視化しておけば、為替相場の変動時に冷静に意思決定しやすくなります。
● (2)価格転嫁力を高める取り組み
中小企業の最大の弱点は、価格転嫁の遅れです。対策として実務でできる具体的行動があります。
○ 取引先との契約書に「価格調整条項」を入れる
- 材料費や為替の変動に応じて価格を自動調整するルール
- 国も下請法で価格転嫁の促進を後押ししている
- 新規契約だけでなく、更新時に改定することも可能
○ 複数の仕入先を確保する
- 通貨リスクの分散
- 相見積もりにより取引条件を改善できる
○ 高付加価値化で値上げ余地を作る
- 技術サービスの付加
- 小ロット加工・短納期対応などの差別化
「値上げできない企業」ほど為替に振り回されやすく、長期的な経営リスクが高まります。
● (3)金融機関を活用した「ヘッジ(為替予約)」の基本
中小企業でも為替予約は利用できます。難しい金融商品ではなく、基本的な方法で十分効果があります。
○ 為替予約(フォワード契約)
- 将来の外貨支払い分をあらかじめ為替レートで固定
- 銀行が提供しており、取引額が小さくても利用可能
- 利益を取りに行く商品ではなく、損失の拡大を防ぐ仕組み
○ 輸入企業に向いているケース
- 月ごとの外貨支払い額が一定
- 為替が乱高下して資金繰りに支障が出る
- 利幅が薄く、為替変動の影響を受けやすい
○ 注意点
- 必ずしも「最安値」で外貨を買えるわけではない
- ただし、予算と損失を見通せるメリットは圧倒的
「為替を当てる」より、「損失を限定する」ことが管理では最重要です。
● (4)在庫戦略・資金繰り戦略も為替リスク対策の一部
為替リスク管理は金融対策だけではありません。
○ 在庫は「最適化」が重要
- 円安局面では在庫増で仕入コストが増大
- 需要予測を精度高く行うことで過剰在庫を防ぐ
- 自動仕入れ・販売管理システムで精度が向上
○ 資金繰りの余裕はリスク耐性に直結
- 運転資金の融資枠を確保
- 補助金・保証協会の制度も活用
- 手元資金の不足は円安局面での最大リスク
資金が枯渇すると、為替変動に耐える前に経営が行き詰まることがあります。
● (5)中小企業こそ「為替を読まない」姿勢が大切
為替相場を予測しようとするほど、意思決定が遅くなる傾向があります。
必要なのは予測ではなく、
- 想定外の為替変動に備える仕組み
- 利益率と資金繰りを守るルール
- 取引条件を改善する対話
といった「安定経営のための設計」です。
経営者が為替の短期予測にこだわらず、仕組みとして管理する方が、長期的なリスクを抑えることができます。
結論
中小企業にとって、円安は大きな脅威である一方、企業によっては競争力強化のチャンスにもなります。為替感応度の見える化、価格転嫁のための取引条件改善、為替予約を含むヘッジの活用、在庫・資金繰りの最適化など、対策は多岐にわたります。重要なのは「為替を当てること」ではなく、急変動が起きても利益と資金繰りを守れる仕組みづくりです。仕組みを整えることで、円安局面でも中小企業は安定的な経営を続けることができます。
出典
日本経済新聞「想定為替レート、企業145円」(2025年11月)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
