離婚時の大きなお金のテーマのひとつが「財産分与」です。婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を公平に分ける仕組みですが、実際には「どこまでが対象なのか」「名義がどちらでも関係あるのか」「ローンはどう扱うのか」など、誤解や混乱が起きやすい分野です。また、2024年の民法改正によって財産分与の請求期限が延長され、新しいルールが明確化されたことで、以前よりも制度が利用しやすくなりました。本稿では、財産分与の基本から、ローンや不動産の扱いまで、押さえておくべきポイントを整理して解説します。
1 財産分与とは何か
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して形成した財産について、離婚時に一方の配偶者から他方へ分ける制度です。
ここで重要なのは、
名義の有無は関係なく「夫婦が結婚生活の中で築いた財産」が対象
という点です。
夫名義の預金や妻名義の株式など、どちらの名義であっても、形成過程が夫婦の協力によるものであれば共有財産とみなされます。
2 財産分与の対象となるもの
財産分与の対象は「婚姻期間中に形成した財産」です。具体的には次のようなものが含まれます。
- 現金・預貯金
- 不動産(土地・建物)
- 有価証券(株式・投資信託など)
- 退職金(一定の将来受給分も対象の場合あり)
- 車・家財
また忘れがちですが、次のような「負債」も対象になります。
- 住宅ローン
- 自動車ローン
- 教育ローン
- クレジットカードの分割残高
財産と負債を差し引いた「純資産」をもとに分与割合を判断するのが一般的です。
3 2024年民法改正:請求期限は離婚後5年へ
これまで財産分与の請求期限は離婚後2年以内とされていました。
しかし制度上、「2年では短すぎる」「離婚直後は生活が大変で準備ができない」という指摘が多く、2024年の民法改正で離婚後5年以内へと延長されました。
● なぜ5年が重要なのか
離婚後は住まいや収入の変化など、生活基盤の整備に追われます。ゆっくり財産の調査をする時間がないまま期限が迫るケースが多く、被害を防ぐ目的で延長されました。
5年あれば、
- 財産内容の確認
- 通帳や明細の取得
- 不動産査定
- ローンの残高確認
など、必要な準備を冷静に進めることができます。
4 2分の1ルールが明文化された背景
従来、財産分与の基本的な考え方は「夫婦の寄与が同等と推定され、原則折半」という運用が続いていました。
改正民法ではこれが明文化され、
「夫婦の寄与の程度に明らかな差がない限り、財産は2分の1ずつ分ける」
というルールが明確になりました。
つまり、
- 専業主婦(夫)だからといって取り分が少なくなるわけではない
- 名義が夫だけでも半分を請求できる
という点がより明確になったと言えます。
5 不動産とローンはどう扱うか
財産分与で最もトラブルになりやすいのが「不動産」と「ローン」の扱いです。
(1)夫婦共同名義の自宅
夫婦の共有名義で購入した自宅は、次のいずれかの方法で整理します。
- 自宅を売却し、売却益(または損失)を夫婦で分ける
- どちらか一方が住み続ける場合、もう一方に持分を精算してもらう
- ローンを組み替えて単独名義にする
いずれにしても、夫婦双方の合意が必須です。
(2)ペアローンは特に注意
夫婦でペアローンを組んでいる場合、離婚後の対応はさらに慎重に進める必要があります。
- 銀行は基本的に「離婚したから解消します」という扱いをしない
- どちらかが住み続ける場合は、単独ローンへの一本化が必要
- 返済が滞れば「連帯責任」として双方に影響する
離婚後、片方だけが返済を続けるケースでは、相手方に支払能力がないとトラブルにつながりやすいのが現状です。
(3)共有分割請求という方法
話し合いでは合意できない場合、「共有分割請求」という法的手続を利用することもできます。
裁判所の判断により、
- 売却による現金化
- 分割方法の指定
などが行われ、共有状態を解消できます。
現在のルールでは、不動産に関しては特に専門家(弁護士・司法書士・不動産会社)との連携が重要です。
6 財産分与に向けた事前準備
財産分与を適切に行うためには、離婚前の段階で次の資料をできる限り集めておくことが大切です。
- 預金通帳(コピーでも可)
- 給与明細・源泉徴収票
- 保険証券
- 不動産の登記事項証明書
- ローンの残高証明
- 投資商品の取引明細
後から取得しにくくなる資料が多いため、別居前や話し合いができるうちに整理しておくことが重要です。
結論
財産分与は、離婚後の生活基盤を大きく左右する重要な手続きです。2024年の民法改正によって「請求期限5年」「2分の1ルール」がより明確になり、制度として利用しやすくなっています。一方で、不動産やローンの扱い、ペアローンの解消などは専門的で、トラブルが起こりやすい分野です。早めの情報収集と資料整理を進めれば、離婚後の生活を安定させるための適切な判断ができるようになります。次回は、慰謝料と養育費の取り決め、最新の法改正に基づく確実な受け取り方法について詳しく解説します。
出典
・日本FP協会コラム「財産分与の基礎知識」
・2024年民法改正(財産分与関連)
・裁判所実務(共有分割請求等)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
