◆ 減税の裏にある“1.5兆円の穴”
ガソリン・軽油の旧暫定税率を廃止すると、国と地方で年間約1.5兆円の税収減が生じると試算されています。
これは法人税収の約5%に相当し、財政構造にとって決して小さくない数字です。
その穴をどう埋めるのか。
自民党がまとめた「論点整理案」には、次のような三つの財源軸が提示されました。
- 法人税の租税特別措置(租特)の改廃
- 金融所得課税の強化(「1億円の壁」是正)
- 自動車関係諸税の見直し(車体課税)
それぞれの狙いと市場への影響を見ていきましょう。
◆ ① 法人税の「租特」見直し ― 企業優遇の棚卸しへ
租税特別措置とは、研究開発・設備投資・賃上げなど、政策目的に沿った企業活動に対して税負担を軽くする仕組みです。
一見すると「成長支援」策ですが、対象が広がりすぎ、実質的な減税の温床になっていると指摘されてきました。
2023年度の租特による減税規模は約2.9兆円(前年比3割増)。
政府はこの一部を廃止・縮小することで、ガソリン減税の財源に充てる構想です。
ただし、研究開発税制や賃上げ促進税制の縮小は、企業投資マインドや配当政策に影響を及ぼすリスクがあります。
株式市場の視点では、
- 内需・製造業株には一時的なマイナス要因
- ただし、財政健全化の方向性が明確になれば長期的な金利安定=株価下支え要因
という両面があります。
FPや投資家としては、「短期減益・長期安定」という時間軸の違いを意識すべき局面です。
◆ ② 金融所得課税の強化 ― 「1億円の壁」再び
もう一つの柱が、金融所得課税の見直しです。
現在、上場株式や投資信託の譲渡益・配当金には一律20.315%(所得税+住民税)が課されています。
一方で、所得が1億円を超える富裕層では、給与所得よりも金融所得の比率が高くなり、実効税率が下がる「1億円の壁」が問題視されています。
政府・与党内では、
- 高所得者層に限り金融所得税率を引き上げる案
- 総合課税(給与・不動産・金融を合算)への移行を段階的に進める案
が浮上しています。
🟡 投資家が注目すべき2つのポイント
- 新NISAとの整合性
非課税枠が拡充されたばかりのNISAとのバランスを取る必要があり、
「一般課税口座」に偏る投資家ほど影響を受けやすい。 - 市場センチメントへの影響
高配当株や短期売買を中心とする富裕層の売りが出るリスク。
逆に、「長期・積立・分散」型投資の優位性が高まる。
この動きは単なる税率改定ではなく、資産所得倍増計画の方向修正でもあります。
「誰がどこで税を負担するのか」という分配構造の再設計の一環なのです。
◆ ③ 車体課税の再構築 ― EV・観光・環境への布石
3つ目の柱は自動車関係諸税の見直し。
ガソリン・軽油税の減収を埋めるため、自動車の購入・保有・走行にかかる課税の再整理が検討されています。
現行制度では、
- 自動車重量税
- 自動車税(環境性能割)
- 車体取得税(過去)
などが複雑に重なり、税体系が分かりにくい構造です。
政府は今後、
- EV(電気自動車)やハイブリッド車への優遇を段階的に縮小
- 燃費・走行距離に応じた“利用課税”方式の導入
を視野に入れています。
また、外国人旅行者への免税制度や非居住者の不動産取得課税も、「新しい財源候補」として例示されています。
観光・不動産市場にも間接的な波及が出る可能性があるため、地方経済やREIT投資にも注目が必要です。
◆ ◆ 投資・政策・税の三位一体で考える時代へ
ガソリン税の減税は、
「税を下げる」だけでなく「どこから取るか」を問う再分配の始まりです。
- 家計:ガソリン代の節約で消費回復
- 政府:財源確保のために法人・金融・車体に目を向ける
- 投資家:税制再編がポートフォリオ選択に直結
この三者が、ひとつの政策サイクルの中で動き始めています。
◆ まとめ ― 減税と課税の再配分を「投資の眼」で読む
| 観点 | プラス面 | リスク面 |
|---|---|---|
| 家計 | 燃料費減・実質所得増 | 財源次第で将来増税も |
| 企業 | 内需回復・物流コスト低下 | 租特縮小による税負担増 |
| 投資家 | 金利安定・長期投資追い風 | 金融課税強化による実効利回り低下 |
政策は常に「トレードオフ」で動きます。
減税の裏にある構造転換を見抜くことが、これからの税制リテラシーと投資判断力の分かれ目となるでしょう。
出典:2025年10月23日 日本経済新聞「自民、ガソリン減税財源案」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
