――亡くなった後の手続きを誰が担うのか
「もし自分が亡くなったら、葬儀や納骨はどうなるのか」
「病院や介護施設の清算をしてくれる人はいるのか」
独居高齢者にとって、死後の事務を誰が担うかは大きな不安材料です。相続人がいない、あるいは遠方にいる場合、手続きが滞り、病院や大家から「誰が責任を持つのか」と迫られるケースも少なくありません。
こうした不安に対応する制度が 死後事務委任契約 です。
死後事務委任契約とは?
死後事務委任契約とは、本人が生前に信頼できる人(弁護士・司法書士・法人・知人など)と契約を結び、死後の手続きを依頼しておく制度です。契約は通常、公正証書で作成されます。
死後事務の範囲は幅広く、例えば:
- 葬儀や納骨の手配
- 病院・介護施設の清算
- 家賃や公共料金の支払い・解約
- 行政機関への死亡届、年金・保険の手続き
- 家財道具の整理や遺品の処分
相続財産の分割は相続人の仕事ですが、それ以前に必要な「生活にまつわる後片付け」を任せられるのが特徴です。
福祉サービスの代行との違い
第1回で取り上げた福祉サービス(社協の手続き代行など)は、基本的に「生前の支援」を目的としています。入退院や介護施設の利用手続きは対象ですが、死後の事務は範囲外です。
一方、死後事務委任契約は「死後の処理」に特化しており、法的拘束力を持ちます。契約書に基づいて受任者が業務を行い、費用はあらかじめ本人が預託金として準備しておく仕組みです。
つまり:
- 福祉サービス → 生前の生活支援
- 死後事務委任 → 死後の手続き支援
この二つを組み合わせることで、「生きている間の安心」と「亡くなった後の安心」の両方をカバーできます。
利用時の費用と注意点
死後事務委任契約を結ぶ際の費用は以下の通りです:
- 公正証書作成の手数料:数万円程度
- 受任者への報酬:数十万円〜(内容により変動)
- 実費(葬儀・納骨費用など):100万円〜200万円程度
注意点としては:
- 契約相手の選定が重要(信頼できる人・法人に依頼すべき)
- 預託金の管理方法を明確にしておく(トラブル防止のため信託口座を使うケースもある)
- 契約書に具体的な範囲を明記しておく(曖昧だと揉めやすい)
税理士・FP視点:相続との関係
死後事務委任契約は相続とは直接関係しませんが、相続を円滑に進める前提条件になります。
- 葬儀費用と相続
葬儀費用は「相続債務」として相続財産から控除できます。事前に委任契約で準備しておけば、相続人間で「誰が立て替えるのか」で揉めることを防げます。 - 相続人がいない場合
相続人がいないと、最終的に財産は国庫に帰属します。その前に病院や施設、大家への清算をしなければならず、死後事務委任契約がなければ手続きが宙に浮きます。 - 遺言とのセット活用
遺言で財産の行き先を指定し、死後事務委任で「死後の生活整理」を任せる。この組み合わせで「財産」と「生活」の両方をカバーできます。
ケースで考える:独居男性(78歳、資産3,000万円、相続人なし)
- 課題:死後の葬儀や納骨、住居の解約を誰もしてくれない
- 対策:
1. 死後事務委任契約を結び、葬儀・納骨をNPO法人に依頼
2. 預託金として200万円を準備
3. 残りの財産については遺贈寄付の遺言を作成(大学・NPOなどへ)
これにより、死後の生活整理と財産の使い道を明確にできる。相続人がいなくても、自分の意志に沿った形で人生を締めくくれる。
まとめ
死後事務委任契約は、「亡くなった後の生活の後片付け」を安心して任せられる仕組みです。独居高齢者にとっては、公的福祉サービスではカバーできない領域を補う重要な制度といえます。
税理士・FPとしては、
- 遺言や信託と組み合わせて総合的な設計をする
- 預託金の準備を含め、資金計画を立てる
- 相続人がいる場合も、費用トラブル防止の観点で契約を勧める
といったアドバイスが有効です。
次回予告
次回は「遺言と信託」について解説します。
- 遺言の基本的な仕組みと法的効力
- 家族信託を使うメリット・デメリット
- 任意後見や死後事務委任とどう組み合わせると安心か
を、具体的な事例を交えてご紹介します。
(参考 2025年9月11日付 日経新聞朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
