【第2回】賃上げ時代の到来と労働時間規制―「時間」から「付加価値」へ、日本企業は転換できるのか―

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

日本企業の賃金政策は、明らかに転換点を迎えています。日本経済新聞の社長100人アンケートでは、2026年の想定賃上げ率として「5%台」が最多となり、基本給を中長期で引き上げる方針を示す経営者は9割を超えました。
かつての日本では、賃上げは好業績の結果として行われる「余力対応」が主流でした。しかし現在の賃上げは、人材確保や定着を目的とする「必要対応」の色合いが強くなっています。本稿では、この賃上げの潮流と、同時に議論されている労働時間規制緩和の関係を整理し、日本企業に求められる構造転換を考えます。

賃上げの本質は「防衛策」へ

今回のアンケートで特徴的なのは、賃上げの理由として「人材確保」を挙げる回答がほぼ全社に及んだ点です。
物価高への対応や社員の士気向上といった要因もありますが、根底にあるのは「賃金を上げなければ人が集まらず、辞めていく」という切実な危機感です。少子高齢化が進む中で、人材市場は完全に売り手優位となり、企業規模や業種を問わず、処遇改善が不可欠になっています。
このように、賃上げはもはや成長の果実ではなく、事業を維持するための前提条件になりつつあります。

賃上げが突きつける生産性の問題

賃上げが進めば、当然ながら企業の人件費負担は増加します。その結果、避けて通れないのが「生産性」の問題です。
同じ労働時間でより高い付加価値を生み出せなければ、賃上げの持続は難しくなります。この文脈で、経営者の間から労働時間規制の緩和を求める声が強まっていると考えられます。
残業上限や裁量労働制の制約が、業務の繁閑差や高度業務への対応を難しくしているという不満は、一定の合理性を持っています。

長時間労働は解決策にならない

ただし、賃上げと長時間労働を結び付ける発想には注意が必要です。
長時間労働によって短期的に成果を上げることは可能かもしれませんが、疲弊や健康問題が生じれば、離職率の上昇や人材の固定化につながります。結果として、人材確保コストはさらに高まり、賃上げの効果は相殺されてしまいます。
賃上げ時代に求められるのは、時間を増やすことではなく、時間当たりの価値を高めることです。

メリハリ型賃上げが示す変化

アンケートでは、重点的に賃上げする対象として若手や新入社員が上位に挙がり、中堅層や管理職は相対的に低い割合となりました。
これは、企業が年功的な一律処遇から、役割や将来性を重視した配分へと移行していることを示しています。
この流れが進めば、評価制度や働き方も「時間」ではなく「成果」や「役割」を基準に再設計する必要があります。労働時間規制の議論も、この構造変化と切り離して考えることはできません。

結論

賃上げが定着する時代において、労働時間規制の議論は単純な緩和か維持かでは整理できません。
重要なのは、賃上げを支える生産性向上をどう実現するかです。
時間を延ばす発想から脱却し、業務設計や評価制度を含めた働き方全体の転換が進まなければ、賃上げの持続性は確保できないでしょう。

参考

・日本経済新聞「〈社長100人アンケート〉賃上げ『5%台』が最多」
・日本経済新聞「〈社長100人アンケート〉労働規制緩和『賛成』9割」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました