【第2回】婚姻費用と別居のルール —— 離婚前後の生活を安定させるために

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離婚を検討している夫婦にとって「別居」は大きな分岐点になります。別居によって生活環境は大きく変わり、家計の負担も一気に増えます。しかし、法律上の婚姻関係が続いている限り、夫婦には互いを扶養する義務があり、収入の多い側が少ない側に生活費を支払う「婚姻費用」という制度があります。この制度を正しく理解しておくことは、別居後の生活を安定させるために欠かせません。本稿では、婚姻費用の基本、金額の決まり方、請求のタイミング、別居時の注意点を整理して解説します。

1 婚姻費用とは何か

婚姻費用とは、夫婦と子どもが日常生活を維持するために必要な費用のことです。住居費、食費、光熱費、教育費など、生活全般に関わる費用が含まれます。

法律(民法760条)では、夫婦は「同程度の生活水準を保持できるように互いに扶養し合う義務」があると規定されています。
この生活保持義務に基づき、収入の多い側が少ない側に生活費を分担するのが婚姻費用の根拠です。


2 婚姻費用が発生する期間

婚姻費用が発生する期間は、次のいずれかまでです。

  • 離婚が成立するまで
  • 別居を解消するまで

また、非常に重要なポイントとして、
婚姻費用は「請求した日」からしか支払われない
という原則があります。

「別居したから自動的に相手が払ってくれる」と誤解されがちですが、実際には請求手続きをしなければ支払いは開始されません。過去にさかのぼって請求することもできません。

そのため、別居を決断したら早めに婚姻費用の請求を行うことが生活安定に直結します。


3 婚姻費用の金額はどう決まるか

婚姻費用の金額は、裁判所が公表している「婚姻費用算定表」を参考に算出されます。

算定表は主に次の要素をもとに構成されています。

  • 夫婦それぞれの収入
  • 子どもの人数
  • 子どもの年齢(教育費の加算)

算定表は、毎月支払われる金額の目安として広く使用されています。話し合いで金額を決める場合でも、この算定表に沿った金額が一般的な基準になります。


4 婚姻費用を受け取るための手続き

婚姻費用は、自動で支給されるものではありません。次のステップで請求します。

● 夫婦間で話し合う

最初は話し合いやメールのやり取りで合意する方法が一般的です。
合意した内容は書面化し、公正証書にすると不払いのリスクを減らせます。

● 話し合いが難しい場合:内容証明郵便

相手が協議に応じない場合、内容証明郵便で婚姻費用の請求を明確に伝えます。

● さらに進める場合:家庭裁判所で調停を申し立てる

調停を申し立てると、家庭裁判所が間に入り、双方の収入や生活状況を踏まえて金額を調整します。
調停がうまくいかない場合は審判で裁判所が金額を決定します。


5 別居の原因による「減額」「不支給」の可能性

原則として、婚姻費用は収入差に応じて算定表に基づいた金額になりますが、例外的に減額されるケースがあります。

例えば、

  • 不倫をした側が別居し婚姻費用を請求した
  • DV加害者が被害者に対して請求した
  • 家庭を放置して突然出て行った
    など、別居の原因を作った側の請求が認められない、または大幅に減額されることがあります。

これらは個別事情により判断されるため、調停や審判で詳細に審理されます。


6 別居時に注意しておきたいポイント

婚姻費用の請求と併せて、別居時には次の3点を意識しておくことが重要です。

● 生活費の確保

別居直後は家計が急激に変化します。引っ越し・新生活の初期費用も重なるため、生活費を把握し、早めに婚姻費用を請求することが大切です。

● 子どもの生活環境の安定

子どもがいる場合、転校や生活リズムの変化が生じます。婚姻費用や養育費に関する話し合いも、子ども中心で考える視点が必要です。

● 別居前に情報を集めておく

預金通帳のコピー、源泉徴収票、保険証券、家計資料など、財産分与に備えて情報を収集しておくと後の手続きがスムーズです。


7 婚姻費用は離婚後の生活設計に直結する

婚姻費用は、離婚までの間の生活を支える「命綱」のようなものです。
離婚後の生活基盤が整うまでの期間、生活費を安定させる非常に重要な制度です。

一方で、請求が遅れると支払いが受け取れない期間が生じるため、別居を決めた時点で早めに行動することが何よりも重要です。


結論

婚姻費用は、別居後の生活を安定させるために欠かせない制度です。収入差に応じて金額が決まり、請求した日から支払いが開始されるため、別居を決めたらすぐに準備を進める必要があります。話し合いが難しい場合は調停の利用も選択肢に入れながら、生活費の確保と子どもの生活環境を守るための行動を早めに取ることが大切です。次回は、離婚の重要項目である「財産分与」について詳しく解説します。


出典

・日本FP協会コラム「婚姻費用に関する基礎知識」
・民法760条(婚姻費用の分担)
・家庭裁判所「婚姻費用算定表」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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