【第2回】任意後見制度とは?――判断能力が低下したときの備え

FP
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日本は世界でも類を見ないスピードで高齢化が進んでいます。2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると推計されています。独居高齢者にとって、この問題は「自分のこと」として避けて通れません。

「もし認知症になったら、預金や年金をどう管理すればいいのか」
「介護施設に入る契約や入院の手続きを誰がしてくれるのか」

こうした不安に対応する制度が 任意後見制度 です。


任意後見制度の仕組み

任意後見制度とは、本人がまだ元気なうちに「判断能力が不十分になったときに備えて、誰に財産管理や生活支援を任せるか」を契約で決めておく制度です。契約は 公正証書 によって結びます。

  • 任意後見契約を結ぶ
  • 将来、認知症などで判断能力が低下する
  • 家庭裁判所が「後見監督人」を選任
  • 後見契約が発効し、任意後見人が活動を開始

この流れが基本です。

任意後見人は、以下のような手続きを担います:

  • 預金の出し入れや生活費の支払い
  • 医療・介護契約の締結
  • 公的給付の申請や更新
  • 不動産の管理

つまり、判断力が落ちても日常生活が続けられるようにする仕組みです。


メリットと注意点

メリット

  • 自分で後見人を選べる
     信頼できる家族や知人、専門家をあらかじめ指定できます。
  • 契約内容を柔軟に決められる
     生活費の管理だけ任せる、施設入所の判断まで任せるなど、ニーズに応じて契約内容を設計できます。
  • 法的効力が強い
     家庭裁判所が監督するため、不正利用のリスクが抑えられます。

注意点

  • 実際に使えるまでに時間がかかる
     契約をしても、すぐに発効するわけではなく、判断能力の低下+裁判所の手続きが必要です。
  • 費用がかかる
     契約時の公証役場手数料に加え、後見監督人の報酬(月2〜3万円程度)が発生します。
  • 相続対策には使えない
     後見人は贈与や遺言作成はできません。そのため「生活の安心確保」には役立ちますが、「相続の準備」は別途必要です。

税理士・FP視点:任意後見と相続対策の違い

税理士やFPとして重要なのは、任意後見は「生活の安心制度」であり、「資産承継制度」ではないということです。

  • 任意後見 → 財産を守り、生活を支える
  • 遺言・信託 → 財産を承継させる

両者は役割が違うため、組み合わせて使うことがベストです。

具体的なアドバイス例

  • 資産3,000万円程度の独居高齢者
     → 任意後見で生活の安心を確保し、遺言で財産承継を明確化
  • 資産1億円規模の方
     → 任意後見に加え、信託を活用して資産運用・承継を柔軟に設計

このように、資産規模と家族関係によって適切な制度設計は異なります。


ケースで考える:独居女性(75歳、資産5,000万円)

  • 課題:判断能力低下に備えたい、死後は財産を甥姪に渡したい
  • 対策
     1. 任意後見契約を結び、医療・施設入所の判断を信頼できる甥に委任
     2. 公正証書遺言を作成し、財産を甥姪に承継する旨を明記
     3. 必要に応じて、資産の一部を信託に移し、安定的な生活費の支払いに充てる

こうした設計により、「生前の安心」と「死後の承継」の両方をカバーできます。


まとめ

任意後見制度は、独居高齢者が判断力を失っても安心して生活を続けられる仕組みです。ただし相続対策は別途必要であり、遺言や信託と組み合わせることが不可欠です。

税理士・FPとしては、任意後見を「生活の備え」として提案しつつ、財産承継は別の制度で補うようにアドバイスすることが大切です。


次回予告

次回は「死後事務委任契約」について解説します。

  • 亡くなった後の葬儀・納骨・役所手続きを誰が担うのか
  • 福祉サービスの代行との違い
  • 相続人がいない場合にどう備えるか

を、具体例を交えてご紹介します。


(参考 2025年9月11日付 日経新聞朝刊)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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