離婚を考えるとき、多くの人がまず心配するのは「お金のこと」ではないでしょうか。感情面の揺れや生活環境の変化に加え、離婚は法律・手続き・生活再建など複数の要素が絡み、経済面でも大きな負担が生じます。離婚後の生活を安定させるためには、早い段階からお金の全体像を把握し、必要な準備を整えておくことが不可欠です。本稿では、離婚に伴うお金の全体像を「3つの視点」から整理し、何から着手すればよいかをわかりやすく解説します。
1 離婚時に確認すべきお金は「3つの分類」で整理する
離婚に関するお金は、複雑なように見えて、実は次の3つに整理できます。
- 離婚時に必要な費用
- 離婚前後の生活費(婚姻費用を含む)
- 相手から受け取れる可能性があるお金
まずはこのフレームを頭に入れておくと、必要な手続きや準備が理解しやすくなります。
2 ① 離婚時に必要な費用
離婚のタイミングでは、状況に応じてさまざまな支出が発生します。
● 引っ越し・別居に伴う初期費用
別居する場合は、以下のようなまとまった出費が必要になります。
- 引っ越し費用
- 敷金・礼金
- 家具・家電などの生活用品
- 一時的な滞在費
一般的に、10万〜50万円規模になるケースも少なくありません。
● 調停や裁判に進んだ場合の費用
協議離婚が成立しない場合、家庭裁判所での調停・裁判へと進む流れになります。
- 調停申立ての印紙代・郵便切手代
- 戸籍謄本・住民票・課税証明書などの取得費
- 弁護士費用
- 裁判へ移行した場合の追加費用
経済的に厳しい人は、法テラスの費用立替制度が利用できる場合もあります。
3 ② 離婚前後の生活費(婚姻費用)
別居を開始しても法律上は婚姻関係が継続しており、夫婦には互いの生活を維持する義務があります。これを「婚姻費用の分担義務」といい、収入の多い側が少ない側へ生活費を支払います。
● 婚姻費用は「請求した時点」から
婚姻費用は、原則として請求した日から発生します。
世間では「過去分も請求できるのでは」と誤解されがちですが、過去にさかのぼる請求は不可 です。
別居を検討する段階で、早めに請求手続きを行うことが重要です。
● 金額は裁判所の算定表が基準
裁判所が公表している「婚姻費用算定表」をもとに、収入や子どもの人数などを踏まえて金額を見積もります。
● 話し合いで合意できたら公正証書に
口約束のままにすると後のトラブルにつながりやすいため、公正証書として残しておくと安心です。
● 話し合いが難しい場合は調停へ
- 内容証明郵便で請求する
- 家庭裁判所で婚姻費用分担請求調停を申立てる
こうした手続きを通じて、正式に金額を決めることができます。
4 ③ 相手から受け取れる可能性があるお金
離婚時に受け取れる可能性があるお金として、次が挙げられます。
- 慰謝料
- 養育費
- 財産分与
- 年金分割
これらは家計に大きく関わり、離婚後の生活の土台になります。
● 慰謝料
不貞行為(浮気)やDVなど、相手の不法行為による精神的苦痛が認められた場合に請求できます。
● 養育費
子どもの生活費・教育費を賄うための費用で、監護している側の親が請求します。
● 財産分与
婚姻期間中に築いた共有財産を公平に分ける制度。
現金・預貯金、不動産、有価証券のほか、負債(住宅ローン等)も対象になります。
2024年の法改正で、請求期限が離婚後2年から5年へ延長されました。
● 年金分割
厚生年金や共済年金を対象に、離婚後の年金の一部を受け取ることができる制度です。
5 離婚準備で「最初にやるべきこと」
離婚前の段階で、まず次の5つを確認しておきましょう。
- 収入・支出の把握(家計の現状)
- 共有財産と負債の一覧化
- 別居後の住まいの確保
- 婚姻費用を請求する準備
- 必要書類(預金通帳コピー・源泉徴収票・保険証券など)の整理
特に財産の把握は時間がかかるため、早い段階から準備することをおすすめします。
6 離婚は「手続き」よりも「準備」が重要
離婚は“話し合って離婚届を出せば終わり”という簡単なものではありません。
離婚後の生活費、子どもの教育費、住まい、収入確保など、生活のあらゆる部分を見直す必要があります。
そのため、「感情的に別れたい」だけではなく、
どのタイミングで別居し、どの手続きを進め、どの費用を準備するか
という視点が欠かせません。
結論
離婚は、精神面の負担と同時に経済面でも大きな影響が生じます。離婚時に必要な費用や生活費、相手から受け取れる可能性があるお金を、早い段階で整理しておくことで、離婚後の生活を安定させることができます。まずはお金の全体像をつかみ、自身の状況に照らして「何から手をつけるべきか」を明確にすることが大切です。次回は、別居開始後の重要テーマである「婚姻費用」について詳しく解説します。
出典
・日本FP協会コラム「離婚を考えたときに知っておきたいお金の話」
・民法760条(婚姻費用の分担)
・2024年民法等改正(財産分与・養育費関連)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

