「今年の年末調整は、例年よりもややこしいらしい」
そんな声をよく聞きます。実は2025年の税制改正は、ここ数年で最も大きな見直しのひとつ。
その中心にあるのが――“103万円の壁”が“160万円の壁”に変わるという改革です。
💡 「103万円の壁」ってそもそも何?
これまでパートやアルバイトで働く方の多くが気にしてきたのが「103万円の壁」。
これは、給与所得控除(55万円)+基礎控除(48万円)=103万円という仕組みから生まれたラインです。
- 年収103万円までは、所得税がかからない
- 扶養に入っていれば、親や配偶者の税負担も軽くなる
このため、シフトを「ギリギリ103万円以内に抑える」という働き方が定着していました。
しかし、最低賃金の上昇や物価高で、現実に合わない仕組みになってきたのです。
📈 新しい「160万円の壁」とは?
2025年度の税制改正により、所得控除が一部見直され、
「課税が始まる年収の目安」が103万円 → 160万円へ引き上げられます。
これは、基礎控除と給与所得控除の両方が拡充されたためです。
| 項目 | 改正前 | 改正後(2025年〜) |
|---|---|---|
| 基礎控除 | 48万円 | 58万円(年収200万円以下の方は特例適用で最大95万円) |
| 給与所得控除 | 55万円 | 65万円 |
| 合計 | 103万円 | 約160万円 |
つまり、「年収160万円までは所得税がかからない」という新ルールになります。
👩💼 改正の目的は「働く意欲」を後押し
この「壁の引き上げ」は単なる税率調整ではなく、
“働きたい人がもっと働けるようにする”という政策的な意味合いがあります。
- パートや学生アルバイトが就業調整をしなくてもいい
- 企業にとっても人手不足の緩和が期待できる
- 家計の手取りも増え、消費の底上げにつながる
とくに子育て世帯や共働き世帯では、「壁を気にせず働ける」安心感が大きな変化となります。
🧮 「160万円」とはいえ、社会保険の壁には要注意
注意したいのは、税金の壁と社会保険の壁は別という点です。
年収が130万円(または勤務先によっては106万円)を超えると、社会保険加入が必要になるケースがあります。
つまり――
「所得税はかからないけど、社会保険料が発生する」
という“ダブルライン構造”が引き続き存在するのです。
そのため、実際の手取りを考える際には、税金+社会保険料のトータルで判断することが大切です。
🗓 2025年の年末調整で何が変わる?
会社員やパートの方も、提出書類の内容が一部変わります。
経理・人事部門はもちろん、従業員本人も以下の点を意識しておきましょう。
- 「給与所得控除後の所得金額表」が改定
- 新しい基礎控除額(58万円)に対応した申告が必要
- 所得水準に応じた「特例加算」が導入予定(次回解説)
✏️ まとめ ― 「壁」を意識しすぎず、働き方を見直すチャンスに
「103万円の壁」は、家計を守る“防御線”のようなものでした。
しかし2025年からは、「160万円まで安心して働ける」時代へ。
ただし、社会保険・配偶者控除・住民税など、全体でのバランスを見ることが大切です。
年末調整の書類は、単なる事務作業ではなく、
あなたの家計やライフプランを見直す「年に一度のチャンス」と考えてみてください。
出典:『企業実務』2025年8月号
「年末調整に向けた『基礎控除の見直し等』『特定親族特別控除』の準備実務」
(税理士法人AOIみらい・長坂京)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

