全国で相談件数が過去最高を更新する中、関東・山梨でも「よろず支援拠点」の活用が急速に進んでいます。
2019〜2024年度の相談件数増減率では、埼玉県が2.9倍、栃木県が2.1倍と大きく伸びました。
減少は東京都(9.6%減)のみ。地方圏での支援体制が成果を上げていることが分かります。
背景には、価格転嫁・海外展開・地域連携という3つの軸での支援の進化があります。
ここでは埼玉・栃木・千葉の3県の取り組みを通じて、税理士・FPがどのように関わり得るかを整理します。
🟩 埼玉:デジタルツールで“値上げ交渉”を支援
物価高で価格転嫁が課題となる中、埼玉県の拠点ではデジタルツールを活用して、
中小企業が自ら交渉材料を作成できる仕組みを整えました。
県の施策と連動し、原材料価格や人件費の推移を自動的に資料化できるツールを提供。
よろず支援拠点はその使い方を企業に直接レクチャーし、交渉力の底上げを図っています。
「支援企業が“自走”できるよう、取り組みやすい解決策を提案できる人材がそろっている」
(埼玉県よろず支援拠点チーフコーディネーター 越智隆史氏)
コーディネーターは40名超。税理士・弁護士・デザイナーなど多様な人材がチームを組んで支援。
特に価格交渉支援×原価計算×財務分析の分野で、税理士との連携余地が大きいといえます。
💡 実務連携のヒント
- 値上げ交渉に必要な「原価構造の見える化」を税理士が担当
- FPが「価格転嫁によるキャッシュフロー影響」を試算
- 拠点コーディネーターが「ツール運用と実践支援」を行う
→ 三者連携で「数字に裏付けられた価格交渉」が可能に。
🟦 栃木:越境EC・海外展開を支える“挑戦の場”
栃木県では、海外進出や越境EC(電子商取引)への関心が高まっています。
よろず支援拠点はASEAN諸国や米国向けのセミナーを開催し、
進出の利点や補助金制度、法務リスクなどを包括的に支援。
中でも注目は、ベトナムに移住して越境ECを立ち上げた県内起業家の事例。
この成功体験が他の中小企業にも刺激を与え、地域全体の事業拡大意欲を高めています。
💡 税理士・FPが関われる領域
- 海外展開時の為替リスク・税務リスクの整理
- EC収益の仕訳・消費税処理(越境取引)の支援
- FPによる「海外移住者の年金・社会保険・保険見直し」助言
→ 海外進出×ライフプラン×税務戦略のトータル支援がカギ。
🟨 千葉:金融機関連携で「潜在ニーズ」を掘り起こす
千葉県のよろず支援拠点は、金融機関や商工会議所との連携モデルが進んでいます。
銀行に「代表的な支援テーマ」(例:6次産業化、メニューブック改善)を掲示したチラシを設置し、
行員が相談先として拠点を紹介する流れを確立。
さらに2024年度からは、県信用保証協会など3団体と「共同宣言」を発表。
保証協会が企業課題を毎月共有し、各団体が連携して解決策を検討する仕組みを構築しました。
「拠点を知ってもらうことが重要。SNSや広告を使って事業者との接点を増やしたい」
(千葉県よろず支援拠点 森永逸二郎サブチーフコーディネーター)
💡 専門家が参画できる局面
- 金融機関と共有する「経営改善計画書」の作成
- 税理士による資金繰り・保証協会融資対応
- FPによる再起支援・家計キャッシュフロー分析
→ 「金融×よろず×専門家」のトリプル連携が実現。
🧭 3県に共通するキーワード:「支援の自走化」
埼玉のツール活用、栃木の越境挑戦、千葉の連携強化――。
いずれの拠点も目指しているのは、「企業が支援を受け続けなくても動ける状態」です。
税理士・FPは、こうした「自走型支援」の伴走者として最も相性が良い存在です。
・税理士:経営データを数字で可視化し、持続的な意思決定を支援
・FP:経営者のライフデザイン・資金設計を整え、挑戦を後押し
この2軸が拠点の「人と制度をつなぐハブ」と交わることで、地域経済の循環が生まれます。
🧩 まとめ ― 専門家連携の“現場力”を磨く
関東の事例が示すのは、「よろず支援拠点は制度ではなく現場の動きで変わる」ということです。
コーディネーター、税理士、FP、金融機関、行政。
それぞれの得意分野を持ち寄り、企業を“自走”へ導くネットワークが広がっています。
今後は、価格転嫁支援、海外展開支援、DX支援といったテーマ別の連携モデルも深化していくでしょう。
税理士・FPが地域の経営支援の一角を担うために、まずは地元拠点のチーフに声をかけてみる――
そこから、新たな協働の物語が始まります。
出典・参考:
- 日本経済新聞(2025年10月25日)「埼玉『よろず拠点』 価格交渉ツール活用支援」
- 中小企業庁「よろず支援拠点」公式サイト
- 埼玉県産業振興公社/栃木県産業労働観光部/千葉県商工労働部資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
