【住まい】高経年マンション3つのリスクと、資産価値を守るために今できること

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マンションの高経年化が、現実の問題として私たちの住まいに迫っています。
国土交通省の調査によれば、築40年以上のマンションは2023年末時点で約137万戸あり、10年後には約274万戸、20年後には約464万戸へと急増する見込みです。1980年代の住宅ブーム期に大量供給されたマンションが、今後一斉に「高経年マンション」となっていくためです。

これは一部の古い物件だけの問題ではありません。日本のマンションストック全体が直面する、構造的な課題といえます。
高経年マンションでは、「建物の老朽化」「居住者の高齢化」「修繕積立金の不足」という三つのリスクが同時進行で進みやすく、放置すれば資産価値や居住環境を大きく損なう可能性があります。

建物の老朽化がもたらす現実的なリスク

高経年マンションでまず問題となるのが、建物そのものの老朽化です。特に深刻なのが、防水機能の低下です。屋上や外壁の防水が劣化すると、雨水が内部に浸入し、鉄筋の腐食を招きます。これは建物の構造体に直接影響し、耐久性の低下につながります。

また、給排水管の老朽化による漏水も無視できません。天井から突然水が落ちてくる、床が水浸しになるといった事故は、実際に各地で発生しています。こうしたトラブルは、専有部分だけでなく、上下階の住戸にも影響を及ぼし、住民間のトラブルに発展することもあります。

老朽化は徐々に進行するため、問題が顕在化した時には修繕費が高額になりがちです。結果として、「直したくても直せない」状態に陥るリスクを抱えることになります。

居住者の高齢化と合意形成の難しさ

二つ目のリスクは、居住者の高齢化です。
マンションが建てられてから数十年が経過すると、当初から住んでいる所有者も高齢期に入ります。現役時代には問題なく支払えていた管理費や修繕積立金が、年金生活に入ると重い負担として感じられるようになります。

「今後の大規模修繕で数十万円の一時金が必要になると聞いて、不安を感じている」という声は少なくありません。その結果、修繕計画の見直しや積立金の値上げについて、管理組合内で合意が得られにくくなります。

マンションの維持管理は、多数決や特別決議によって進められます。しかし、世代間で考え方や経済状況が異なると、合意形成は一気に難易度を増します。この点が、高経年マンションの最大の壁ともいえるでしょう。

修繕積立金不足が招く負のスパイラル

建物の老朽化と居住者の高齢化は、最終的に修繕積立金の不足という問題に直結します。
建築費や人件費の高騰により、当初の長期修繕計画で想定していた金額では、必要な工事を賄えないケースが増えています。しかし、住民の反対によって積立金の値上げができなければ、修繕の先送りが常態化します。

修繕が行われないマンションでは、共用部分の荒廃が進み、空室や賃貸化が進行します。居住者の入れ替わりが激しくなることで管理への関心が薄れ、さらに管理状態が悪化するという負のスパイラルに陥ります。

中には、行政代執行による解体が行われ、所有者に高額な費用負担が生じた例もあります。マイホームが、将来「負の資産」になってしまう可能性があるという現実を、無視することはできません。

「長寿マンション」を実現するための視点

では、高経年マンションに未来はないのでしょうか。
必ずしもそうではありません。適切な管理と計画的な修繕を行えば、築年数を重ねても資産価値と住環境を維持しているマンションは存在します。いわゆる「長寿マンション」です。

そのために重要なのは、管理組合が機能しているかどうかです。管理会社に任せきりではなく、管理状況や修繕計画を主体的に確認し、必要に応じて第三者の専門家の意見を取り入れることが欠かせません。マンション管理士などの専門家を活用することで、管理の問題点が可視化され、組合運営の改善につながるケースもあります。

資金計画を「見える化」する

資金面での第一歩として、将来の修繕費用を具体的な数字で把握することが重要です。
住宅金融支援機構が提供する「マンションライフサイクルシミュレーション(長期修繕ナビ)」は、建物の状況や積立金残高を入力することで、将来必要となる修繕費の目安を試算できます。

また、修繕資金の積立方法として「マンションすまい・る債」を活用する選択肢もあります。比較的有利な金利で積み立てができるだけでなく、将来的に共用部分のリフォーム融資を利用する際の優遇につながる点も特徴です。

こうした制度や商品を理解し、管理組合として検討することが、長期的に安定した資金計画につながります。

所有者が「今」取り組むべきこと

建て替えや敷地売却といった出口戦略は、いずれも高い合意形成のハードルがあります。だからこそ、問題が深刻化する前の段階での対応が何より重要です。

まずは、管理組合の総会に関心を持ち、長期修繕計画に目を通すことです。自分の住まいが、どのような状態にあり、将来どのような負担が見込まれるのかを知ることが出発点になります。

FPとしては、住宅ローンの返済計画だけでなく、管理費や修繕積立金の将来的な上昇も含めたライフプランを提示することが求められます。特に超長期ローンを組む若い世代には、老後の家計まで見据えた現実的なシミュレーションを示すことが重要です。

マンションの購入はゴールではなく、スタートです。
長期的な視点で資金計画を立て、所有者としての当事者意識を持つことが、住まいと資産価値を守る最も確実な方法といえるでしょう。


参考

・日本FP協会 会員向けコラム「高経年マンション3つのリスク、その資産価値をどう守るか」(有田美津子)
・国土交通省 マンション政策関連資料
・住宅金融支援機構 マンション管理・修繕関連資料

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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