リスキリングを始めるうえで、最も強い推進力になるのは「キャリアプラン」です。
どれほど小さな学びであっても、それが“自分の将来のどこにつながっているのか”が明確であれば、継続しやすく、迷いが大きく減ります。
しかし現実には、「キャリアプランをどう作ればいいかわからない」「将来のイメージが湧かない」という声が多く聞かれます。特に日本では、企業がキャリアの大部分を決めてきた歴史が長く、個人が主体的にプランを描く文化が十分に根づいていないことも影響しています。
本稿では、キャリアプランを“難しいもの”ではなく、“現実的に作れる未来設計図”として捉え直すために、誰でも使えるシンプルな方法を紹介します。
1 キャリアプランは「予言」ではなく「仮説」でいい
多くの人がキャリアプランを描けない理由は、“正解を描こうとするから”です。
- 10年後の正確な姿を描こうとする
- 完璧なゴールを求めてしまう
- 一度決めたら変えてはいけないと思う
しかし、キャリアプランは未来を言い当てる予言ではありません。
「こうなりたい」という仮説を一度置き、試しながら修正するプロセス こそが本質です。
キャリアは天気予報に近く、未来は常に変動します。にもかかわらず、唯一不変で大切なのは、「自分がどんな状態でありたいのか」という“方向性”です。この方向性さえ持っていれば、途中で修正してもまったく問題はありません。
2 キャリアプランは「3階建て」で考える
複雑に考えずとも、誰でもキャリアプランを描ける構造があります。
それが 「3階建てのキャリアプランニング」 です。
■ 1階:仕事の基盤(維持したいこと・守りたいこと)
ここでは、“今の仕事・生活を維持するために必要な条件”を書き出します。
たとえば:
- 今の収入水準を維持したい
- 家族との時間を確保したい
- 現職の専門性をさらに深めたい
- 健康に無理のない働き方をしたい
1階はキャリアの“安定”を土台として認識するためのフロアです。
■ 2階:成長目標(伸ばしたいスキル・挑戦したい領域)
次は“次のステップ”を描く段階です。
- デジタルスキルを身につけたい
- AIの活用領域を仕事に取り込みたい
- マネジメント能力を磨きたい
- 新しい職種にも挑戦したい
これは1階を踏まえつつ、「未来に向けた移動」を考える段階です。
■ 3階:理想像(なりたい姿・キャリアのゴール)
最後に最上階として、“理想的なキャリア像”を自由に描きます。
- 仕事の幅を広げて専門家として活躍していたい
- 在宅と出社を組み合わせた柔軟な働き方をしたい
- 新しい業界に挑戦していたい
- 副業で自分の経験を提供できるようになりたい
この部分は抽象的でも構いません。
重要なのは「自分が心から望む未来を可視化すること」です。
3 キャリアの方向性は「問い」によって明確になる
キャリアプランは“自己理解の質”がそのまま結果に表れます。そのため、適切な問いを投げかけると方向性が自然と浮かび上がります。
ここでは、キャリアを明確化するための代表的な問いを紹介します。
【問い1】過去3年間で「最も楽しかった仕事」は何か
楽しい仕事には、自分の強みが反映されています。
【問い2】どんな時に「自分は成長している」と感じたか
成長実感のある場面は、将来伸びる可能性が高い領域です。
【問い3】もし半年だけ自由に学べるなら何を学びたいか
興味は学びの“熱源”です。短期休暇が取れた場合の学びたいテーマはキャリア価値が高い傾向があります。
【問い4】自分が誰かに“頼られる場面”はどんな時か
頼られる場面には、他者から見たあなたの価値が表れています。
【問い5】お金ではなく「時間を払ってでもやりたいこと」は何か
これはキャリアの“根源的な欲求”です。ここに答えがあると、将来像が一気に明確になります。
4 キャリアと学びを結びつける「逆算思考」
キャリアプランが決まれば、次は逆算で学びを設計する段階です。
たとえば、3年後に「デジタル人材としてプロジェクトに関わりたい」というゴールがある場合を考えます。
- 3年後:プロジェクトで実務を行う
- 2年後:データ分析・AI活用の実践を経験する
- 1年後:基礎スキルを習得し、小さな案件で試す
- 3カ月後:基礎講座を受講する
- 今日:入門動画を20分観る
このように、ゴールから現在へとステップを逆算すると、
「今日やるべき学び」が驚くほど明確になります。
学び直しが続かない最大の理由は「何のために学んでいるのか」が曖昧だからです。
逆算思考が身につくと、迷いがほとんど消えます。
5 キャリアは“変わっていい”前提で考える
キャリアプランを描くと、「本当にこれでいいのだろうか?」という不安が生まれるのは自然なことです。
しかし、キャリアは固定されたものではなく、常に変わっていいものです。
むしろ、変わることこそが健全です。
- 市場の変化
- 家族の状況
- 心身の健康
- 自分の興味の変化
人生の節目ごとに、プランを見直す必要があります。
大切なのは、
「変えてはいけない」のではなく「変えてよい」
という柔軟な発想です。
キャリアプランを毎年アップデートすることで、リスキリングの方向性も自然と明確になり、行動につながります。
6 キャリアプランを描くとき、企業とはどう向き合うべきか
個人がキャリアプランを持っていても、企業側がそれを理解しているとは限りません。
そこで重要なのが、企業との「対話」です。
・上司に伝えるべきは「希望」ではなく「価値」
キャリアプランを相談する際は、次の三点を軸に伝えます。
- 自分の希望
- スキル習得が仕事にどう活かせるか
- 組織の成果にどうつながるか
企業は「個人の成長が組織の成果に結びつくか」を重視しています。
・キャリアシートは“未来の通知表”
提出するだけで、企業はあなたの方向性を把握でき、異動・研修機会の提供につながります。
自分の希望を伝えない限り、企業はあなたが何を求めているのかを理解できません。
結論
キャリアプランは、未来を固定するものではありません。
むしろ、変化を前提に「自分の方向性を可視化するもの」です。
- 3階建てのプラン
- 適切な問い
- 逆算思考
- 柔軟な更新
- 企業との対話
これらを組み合わせることで、キャリアと学びは自然と一体化していきます。
リスキリングを成果につなげる最大のポイントは、
「学びを、未来の自分につなげるルートを描くこと」
です。
次回の第5回では、「AI時代のリスキリング戦略」について、より実務的に深掘りしていきます。
出典
- 日本経済新聞(2025年12月2日付・各記事)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
