「学び直しを始めたいのに、何を学べばいいかわからない」。
リスキリングに踏み出せない理由として、最も多く挙げられる悩みです。忙しい日々の中で、膨大な学習分野から1つを選ぶのは簡単ではありません。特に、テクノロジーが急速に変化し続ける現在では、数年前まで魅力的だったスキルが、今では必須レベルになっていることもあります。
一方で、多くの人が“選べないまま”時間だけが過ぎてしまいます。本当は学びたい気持ちがあるのに、一歩が出ない。その状態こそ、最も惜しいタイミングかもしれません。本稿では、誰でも迷わず学びのテーマを選べるように、“選び方のフレームワーク”を三つのステップに分けて解説します。
1 第一の軸:「現在の仕事 × テクノロジー」で考える
もっとも再現性の高いテーマ選びは、
「現在の専門性」×「テクノロジー」
という掛け算で考える方法です。どの職種でも環境は急速にデジタル化しています。だからこそ、「自分の仕事の文脈でテックをどう活かすか」が、学ぶべき方向性をはっきりさせてくれます。
たとえば次のような例があります。
- 経理 × AI
→ 自動仕訳、請求書処理、経営分析、BI活用 - 営業 × デジタル
→ 顧客データ分析、ChatGPTを活用した提案書作成、MA・CRM - 人事 × HRテック
→ タレントマネジメント、データに基づく人材育成 - 法務 × 生成AI
→ 契約書レビューの効率化、AIガバナンス - 企画 × データ分析
→ 市場データの可視化、データストーリーテリング
この「仕事×テクノロジー」は、学び直しの入口として最も実践的です。なぜなら、
テクノロジーを理解すると、自分の仕事の“未来の姿”がはっきり見えるようになるからです。
そしてもう一つの大きなメリットがあります。
“何を学ぶか”が仕事の延長線上にあるため、習得後の活かし方が明確で、挫折しにくいのです。
2 第二の軸:「強み × 新しい市場」で可能性を広げる
学び直しのテーマ選びに迷ったときに効果的なのが、
「今ある強み × 別の市場」
という視点です。これは、転職や独立、副業を視野に入れる人にとって特に有効です。
たとえば:
- 人材育成の経験 × 子ども向け教育市場
- 経理・財務スキル × スタートアップ支援
- 営業経験 × 地方自治体・公共セクター
- 語学力 × インバウンド産業
- デザイン × マーケティング領域
このように“市場をずらす”ことで、自分の専門性が新しい価値を持ち始めます。専門家ほど、意外と自分の可能性を狭く見積もっています。しかし、強みを別の市場に持ち込むだけで、キャリアの広がりは一気に大きくなります。
もし自分の強みが明確でない場合は、次の質問が役立ちます。
- 他の人より早くできる作業は何か
- 過去の仕事で褒められたことは何か
- 自分の中で“自然にできてしまう”ことは何か
- 周囲から「助かった」と言われたことは何か
これらは、すべて“強みのヒント”になります。
3 第三の軸:「興味・関心 × 小さな行動」で試してみる
学び直しのテーマは、実際に手を動かしてみることで見えることがあります。人は、頭の中だけでいくら考えても、正解にたどり着くことはできません。行動して初めて、興味の濃淡がわかるのです。
ここで重要なのは、
「まず試す」
「小さく始める」
という行動原理です。
具体的には次のようなステップが有効です。
- TikTokやYouTubeで専門家の短い解説を見る
- ポッドキャストを通勤時間に聞く
- 無料ウェビナーを視聴する
- 2時間のオンライン講座で概要をつかむ
- SNSで興味のあるテーマを発信してみる
これだけでも、どの分野に“熱が入るか”は自然とわかります。一度に正しい選択をする必要はありません。
少し試して、違うと思えば方向転換すればよいのです。
4 「スキル分類表」をつくると迷いが減る
ここで実用的な方法として、自分だけの「スキル分類表」を作成することをおすすめします。
A4紙1枚で十分です。
分類は次の3つ。
1.【現在のスキル】
…今使っている専門性や強み
2.【今後必要になりそうなスキル】
…業界の変化、テクノロジーの影響から想定
3.【興味があるスキル】
…まだ曖昧でもよい
この3つを書き出すだけで、テーマ選びの軸が明確になります。特に「今後必要になりそうなスキル」に気づけると、学ぶ理由が自然と強まります。
5 「生活と学びの両立」を想定しておく
忙しい社会人にとって、日常生活と学びをどう両立させるかは非常に重要です。そこで学習テーマを選ぶ段階で、あらかじめ“現実的に続けられるか”を考えることが有効になります。
たとえば:
- 平日の夜は20分だけ
- 土日は無理をしない
- 通勤時間を活用する
- 家事の合間に音声だけ聴く
- スマホで完結する学習を選ぶ
学びが生活習慣に溶け込むと、選んだテーマが無理なく続けられます。
結論
学ぶテーマを選ぶことは、リスキリングの最初で最大のハードルです。しかし、
「現在の仕事 × テクノロジー」
「強み × 新しい市場」
「興味 × 小さな行動」
この三つの軸を使うと驚くほど選びやすくなります。
学び直しは、一回の大きな決断ではありません。
試しながら、ずらしながら、磨きながら、少しずつ方向が定まっていきます。
そして、テーマ選びに迷う時間こそ、すでにキャリアの一歩を踏み出している証拠です。
次回の第3回では、選んだテーマを“継続できる学び”へと発展させる方法と、企業制度の活かし方を掘り下げます。
出典
- 日本経済新聞(2025年12月2日付・各記事)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
