交際費は、調査官との攻防が最も多い論点のひとつ。
「これは会議費です」「いや交際費です」と見解が分かれるケースは、毎年のように税務調査で繰り返されています。
令和7年度の全国統一研修会資料では、
飲食費の1人1万円基準を中心に、「相手方」「負担割合」「付随費用」の扱いが問われました。
現場で迷う実例をもとに、実務上の判断ポイントを整理していきます。
① 交際費の範囲 ― 接待相手が取引先以外でも?
A社は、取引先の社員だけでなく、仕入業者の家族も含めた懇親会を開催。
「福利厚生的な要素もある」として、会議費処理をしていました。
調査官の指摘:業者やその家族は“事業に関係のない者”であり、交際費に該当。
会社の主張:日頃の感謝を伝える目的であり、通常の取引関係の延長。
結論:調査官の指摘が正しい。
接待等の相手方に取引関係のない者(家族・友人等)が含まれる場合、
支出全体が交際費等に該当。
交際費の相手方は「得意先・仕入先・関係会社等の事業関係者」に限定される。
実務ポイント
- 「事業の円滑化目的」以外の参加者がいれば、全体が交際費になる。
- 社内懇親会や慰労会と混同しやすいため、目的と出席者の範囲を明確化しておくこと。
② 営業補償金を支払った場合 ― 交際費になるのか?
A社は、近隣商店に営業上の迷惑をかけたため、謝礼金(営業補償金)を支払いました。
会社は「損害補償的な性格」として雑費処理。
調査官の指摘:補償金であっても、実質的に関係維持のための支出なら交際費。
会社の主張:営業上の迷惑に対する補償であり、接待や贈答ではない。
結論:調査官の指摘が正しい。
取引関係を円滑に保つために支払った金銭は、
名目が補償金でも交際費等に含まれる(交際費の範囲通達)。
実務ポイント
- 名目ではなく支出の目的と相手方で判定。
- 「損害補償金」「協力金」「見舞金」などの形をとっても、
実態が関係維持目的なら交際費になる。
③ 「1人1万円基準」― 会議費との境界をどう考えるか?
A社は、営業会議後の懇親会で、1人当たり9,800円の飲食費を支出。
「1万円以下だから会議費」と処理しました。
調査官の指摘:飲食の主目的が懇親・接待なら交際費。
会社の主張:会議の延長として実施しており、金額も基準内。
結論:ケースにより異なるが、会議費と認められる可能性あり。
1人当たり1万円以下で、かつ社内打合せ・説明会等に付随する飲食は、
原則として交際費から除外(措法61の4・措令37の5の3)。
ただし、実質が接待目的の場合は交際費とされる。
実務ポイント
- 「1万円以下」でも自動的に会議費とはならない。
- 会議の議題・議事録・開催通知など、実態を示す資料があれば防御力が高い。
- 社外参加者がいない社内打合せなら会議費として認められやすい。
④ タクシー代・送迎費の扱い ― 飲食費の付随費用はどこまで含む?
A社は取引先との会食後、タクシー代を会社が立替払い。
「飲食費1万円以下だから会議費」と主張。
調査官の指摘:送迎費用は飲食費に含まれ、合計で1万円超なら交際費。
会社の主張:移動に伴う実費であり、飲食とは別。
結論:調査官の指摘が正しい。
「1人当たり1万円」の判定には、飲食に付随する費用(送迎費・会場費等)を含む。
実務ポイント
- 飲食代+付随費用の合計で1万円を超える場合は交際費。
- タクシー代を別精算しても、実質的に飲食会に伴う支出なら合算判定。
🧾 まとめ ― 「形式」ではなく「実態」で判断される
| 見極めの視点 | 会議費 | 交際費 |
|---|---|---|
| 目的 | 会議・打合せ・説明等 | 接待・歓待・関係維持 |
| 出席者 | 社員・取引関係者(少数) | 得意先・仕入先など外部者 |
| 飲食の程度 | 軽食・昼食・弁当程度 | 酒類・高額コースなど |
| 費用水準 | 原則1万円以下 | 1万円超または付随費用含む |
| 証拠資料 | 議題・議事録・出席者記録 | 招待状・領収書・出金伝票 |
💬 税理士の視点からの教訓
- 「1万円以下だから安全」という考えは誤り。
- 調査官は“会議の実態”を重視し、会食中心なら交際費に組み替える。
- 領収書1枚よりも、「開催通知」「出席者名簿」「議題記録」の方が説得力を持つ。
- 金額基準だけでなく、目的・場所・時間帯などの総合判断が必要。
📚出典
東京税理士協同組合 教育情報事業配布資料
「令和7年度 全国統一研修会 ~調査官の指摘 vs 会社の言い分~」より
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
