「高市円安」どこまで進む?――155円が“限界ライン”とされる理由

FP

自民党の新総裁に高市早苗氏が就任しました。
市場では、彼女の政策スタンスが「円安を後押しする」と受け止められています。
実際、外国為替市場では円が売られ、1ドル=150円台半ばまで下落しました。

とはいえ、「1ドル=160円台に突入するような超円安」になると見る向きは少ないようです。
今回はその理由を、少しやさしく整理してみます。


■ 「アベノミクス継承」で円安が進む構図

高市氏は、金融緩和と財政拡張を組み合わせた「アベノミクス路線」の継承者とされています。
このため市場では「日銀の利上げは当面ない」との観測が広がり、金利差を意識した円売りが進んでいます。

海外の金融機関も反応は早く、
ドイツ銀行やゴールドマン・サックスが「円買い推奨」を取り下げました。
つまり、「円はまだ下がる」という見方が増えたのです。


■ それでも“超円安”には歯止めがある

では、なぜ160円を超えるような極端な円安は想定されていないのでしょうか。

ポイントは「財政リスク」と「タームプレミアム(長期金利の上乗せ)」の関係です。
バークレイズ証券の門田真一郎氏によると、
ガソリン減税や給付付き税額控除といった財政拡張策が進めば、
30年国債の利回りは上昇(=財政リスク拡大)します。
それが円安要因となる一方で、限界も見えているとのこと。

過去の「トラス・ショック」(英国で財政懸念からポンド急落)を思い出す人も多いですが、
日本では財政規律派の麻生太郎氏が政権内で一定の影響力を持つため、
暴走的な財政拡張には歯止めがかかるという見方です。

このため、試算上は「1ドル=155円程度」が上限とされます。


■ 為替介入や“けん制発言”もブレーキ要因

みずほ銀行の長谷川久悟氏は、
投機筋の円売りポジションを分析した結果からも「155円が限界」と指摘しています。

さらに、高市氏に近い政策ブレーン・本田悦朗氏が
「円が150円を超えたら、やや行き過ぎ」とコメント。
市場に“けん制”のメッセージを発したことで、円の買い戻しが起こりました。

こうした発言は、為替介入のサインとして受け止められることもあり、
市場は慎重姿勢を強めています。


■ “高市円安”はどこまで続くのか

もちろん、今後の財政政策次第では、円安がさらに進む可能性もあります。
たとえば「消費税減税」などに踏み込めば、タームプレミアムが上昇し、
再び“160円台”が見えてくるシナリオもゼロではありません。

ただし現実には、財政規律・為替介入・国際環境といった
いくつもの「見えない天井」が存在します。

結果として、
「高市円安」は進んでも155円前後が現実的な着地点――
これが現在の市場コンセンサスといえるでしょう。


■ 個人投資家が気をつけたいポイント

為替の動きは、輸入物価や株価、金価格にも影響します。
「円安=悪」ではありませんが、
海外旅行やエネルギーコスト、外国資産の評価などに
じわじわと波及するのが為替の怖さです。

円安局面では、

  • 外貨建て資産のリバランス
  • 為替ヘッジ付き投資信託の検討
  • 海外ETFの購入タイミング調整
    などを見直すよい機会にもなります。

■ おわりに

市場の「期待」と「現実」がせめぎ合う中で、
為替はしばらく“高市相場”に敏感に反応しそうです。

ただ、155円ラインを意識した慎重な視点こそ、
今後の資産運用を考える上での冷静な判断材料になるでしょう。


📘出典:2025年10月8日 日本経済新聞朝刊「『高市超円安』は来ない 財政拡張でも155円限界か」
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO91804170X01C25A0DTC000/


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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