「資産運用立国」岸田路線を継承 ― 高市政権の経済政策を読み解く

FP

高市早苗首相が4日にも「日本成長戦略本部」の初会合を開く見通しです。これは、岸田文雄前首相の掲げた「新しい資本主義」を引き継ぎつつ、成長重視へと舵を切る象徴的な動きといえます。新政権は、名称を「日本成長戦略」に改めながらも、「資産運用立国」など主要な経済政策の柱を維持しています。今回は、この政策転換の背景と狙いを整理し、今後の日本経済にどのような影響を与えるのかを考えます。


高市政権の「成長戦略」路線

高市政権が掲げる「日本成長戦略」は、岸田政権が掲げた「新しい資本主義」を完全に否定するものではありません。経済財政相の城内実氏は、岸田前首相との電話協議で「成長に軸足を置く形でバージョンアップする」と伝えました。

この言葉が示す通り、政策の本質は「継続と発展」にあります。岸田政権で進められてきた賃上げ促進、官民協調投資、そして資産運用立国の3本柱はそのまま維持されます。自民党内では、岸田氏が新設される党の「日本成長戦略本部」の本部長に就任し、政権と党の双方から経済政策の一貫性を支える布陣となっています。


「資産運用立国」の継続と深化

「資産運用立国」は、岸田政権期から続く象徴的な政策テーマです。高市首相は所信表明演説で「成長戦略を加速させるためには金融の力が必要だ」と強調しました。個人金融資産の有効活用を通じて経済の底上げを図る方針に変わりはありません。

一方で、金融所得課税の扱いが今後の焦点となります。政府内では一律増税を検討する動きもありますが、岸田氏は「マーケットへの影響が大きい」として慎重姿勢を示しています。小野寺五典税調会長らとの連携を通じ、超富裕層への限定課税などバランスの取れた制度設計を模索する方針です。

また、現行の新NISA制度の拡充が与党側から提案される見通しです。投資教育や長期・積立・分散の普及を促し、家計資産を成長のエンジンに変えていく政策基調は、引き続き政権の中心テーマとなるでしょう。


成長と分配、そして「危機管理投資」へ

高市政権の特徴は、成長戦略の中核に「危機管理投資」を据える点です。脱炭素やデジタル、サプライチェーン強靱化など、国の先行投資によって民間の設備投資を呼び込む仕組みは、岸田政権下の「官民協調投資モデル」を踏襲しています。

加えて、コーポレートガバナンス改革の推進も継続します。岸田氏は「自社株買いより成長投資を」と訴え、取締役会の資本配分の透明化を重視しました。企業統治コードの改訂を通じて、企業がより長期的・社会的な視点から資源を投下するよう促す流れは、今後も続くとみられます。

さらに、未公開株ファンドや官民ファンドの活用強化により、事業再編やスタートアップ支援の促進を狙います。これは、成長投資と構造改革を一体的に進める日本版「成長資本主義」への転換を意味しています。


結論

高市政権が打ち出した「日本成長戦略」は、岸田政権の「新しい資本主義」を否定するのではなく、より成長志向にシフトした“アップデート版”といえます。賃上げ、投資促進、資産運用立国という3本柱を引き継ぎながら、危機管理投資や官民連携を通じた実効性の高い成長政策を目指す構図です。

新政権の課題は、これらの政策を一過性のスローガンに終わらせず、実際の企業行動・家計行動へ浸透させることにあります。資産運用立国が「家計の実感ある成長」に結びつくかどうか――それが高市政権の成長戦略の成否を決める試金石となるでしょう。


出典:
2025年11月3日 日本経済新聞「『資産運用立国』岸田路線を継承」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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