「財政拡大は円高を招く」は本当か 日本の為替相場に当てはめて考える

FP

円安が続くなか、市場では「財政拡大をすれば円高になる」という議論が注目されています。きっかけは、古典的な国際マクロ経済モデルである「マンデル・フレミング・モデル」。積極財政によって金利が上昇し、海外から資金が流入することで通貨高になるという仕組みです。

しかし、いまの日本では財政の拡大がうたわれていても、円はむしろ安値圏で推移しています。「モデルは機能しているのか」「そもそも現代の日本に当てはまるのか」。こうした疑問が市場でも専門家の間でも議論の的になっています。

この記事では、この議論の背景とポイントを整理しながら、「財政拡大で円高になる」という説の現実性について考えていきます。

1 マンデル・フレミング・モデルとは何か

マンデル・フレミング・モデルは、財政政策・金融政策と為替レート・金利の関係を分析するための国際マクロの基本モデルです。

簡潔に整理すると、次のようなメカニズムを前提にしています。

  • 財政を積極化(政府支出増・減税)すると内需が増える
  • 内需拡大は景気を押し上げ、金利上昇につながる
  • 金利が上がると海外から資金が流入する
  • その結果、通貨高(円高)が進む

教科書ではよく見る構図ですが、現実の為替市場が常にこの通り動くとは限りません。

2 「財政拡大で円高」はなぜ再び注目されているのか

今回議論がわき上がった背景には、高市政権が掲げる大規模な補正予算案(17兆円規模)の存在があります。
リフレ派として知られる一部の専門家は、この補正が金利上昇と円高をもたらす可能性を強調しており、モデルの復権が図られています。

また、欧州でも財政拡大を契機に金利が上昇し、ユーロ高(2025年)が進んだことも、モデル支持派にとって根拠のひとつとされています。

3 では、なぜ日本では円高にならないのか

足元の円相場はむしろ円安基調が続いており、「モデル通りになっていない」という指摘が相次いでいます。
その理由として市場関係者やエコノミストが指摘する論点は次のとおりです。

(1)「日本の財政拡大で成長力が高まる」と信じる人が少ない
マンデル・フレミング・モデルが成立するためには、市場が「内需拡大=成長期待」に反応する必要があります。
しかし現在の日本では、

  • 財政拡大の効果に懐疑的
  • 財政悪化リスクへの警戒感
  • 長期的な潜在成長率の低さ

といった理由から、金利上昇につながるほどの強い成長期待が生まれていません。

(2)日本の実質金利がマイナスである
インフレ率>金利の状況が続く日本では、実質金利が低くなり、円を保有する魅力が限定的です。
この状態では、財政を多少拡大しても海外資金を呼び込む効果が弱く、円高には結びつきにくくなります。

(3)家計の外貨投資が円安を後押ししている
NISAの拡大などにより、家計部門の外貨建て投資が増えています。
資産分散の流れは構造的であり、「日本の通貨を持ち続けるより外貨へ」という選好が円安方向に働いています。

(4)米国の財政拡大と金利上昇の方が強力
日本が財政を拡大しても、米国はそれ以上に財政出動と金利上昇を続けています。
結果として、

  • 米金利上昇 → ドル高
  • 相対的な円金利の低さ → 円安

という構図が固まりやすい環境にあります。

4 モデルの「前提条件」がいまの日本と合っていない可能性

マンデル・フレミング・モデルは、あくまで「財政政策の効果」を分析するための理論的枠組みであり、為替を短期予想するための定理ではありません。

さらにモデルには成立のための前提があります。

  • 資本移動が自由である
  • 成長率が改善することを市場が信じる
  • 経常収支が大幅赤字ではない

現在の日本は、構造的な投資先不足、人口減少、成長率の低迷といった要素が重なっており、教科書通りにモデルが機能しにくい環境にあります。

5 「円高を説明できない」ことが議論を活性化させている

市場関係者の共通認識として、円の上昇要因(円高要因)が非常に見つけにくい状況にあります。
その裏返しとして、「財政拡大は円高をもたらす」というモデルが再び取り上げられ、議論が活発になっているとも考えられます。

結論

「財政拡大で円高になる」という説明は、理論としては正しい一面があります。しかし、現在の日本では成り立つための前提条件が揃っておらず、実際の円相場はむしろ円安方向に動いています。

  • 成長期待が高まりにくい
  • 実質金利がマイナス
  • 資産分散としての外貨投資
  • 米国の財政・金利上昇の方が強い影響力

といった要因が積み重なり、マンデル・フレミング・モデルの教科書的な「財政拡大=円高」という図式は、少なくとも現時点の日本には当てはまりにくいといえます。

今後、日本の財政政策がどこまで成長期待につながるのか、そして市場がその変化をどう評価するのかが、円相場に影響する大きな分岐点となりそうです。

出典

  • 日本経済新聞「ポジション:『財政拡大で円高』説、上滑り 資金流出の日本は例外」(2025年11月28日)
  • 各種市場関係者・エコノミストの発言(記事内容に基づく要約)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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