税務調査の現場で問われるのは、「形式」ではなく「整合性」。
帳簿・契約書・議事録・支払実態が一貫していれば、説明は通ります。
逆に、一つでも齟齬があれば、たとえ理屈が正しくても否認されます。
このシリーズでは、調査官の視点と会社の主張のズレを通して、実務の勘どころを8テーマで整理してきました。
本稿では、その要点をチェックリスト形式で総復習します。
📑 第1章 備品・消耗品の区分(第1回)
論点:10万円基準の判断と実態の整合性
| チェック項目 | 要点 |
|---|---|
| ① 1単位で10万円を超えるか | 機能単位・セット販売は合算判定 |
| ② 1年以内に消耗するか | 使用目的・耐用年数で判断 |
| ③ リース・割賦契約の扱い | 実質所有権移転型は資産計上 |
キーワード:少額資産/消耗品費/リース資産/実質所有
📑 第2章 修繕費と資本的支出(第2回)
論点:価値維持か、価値向上か
| チェック項目 | 要点 |
|---|---|
| ① 使用前の補修は? | 取得価額に含まれる(修繕費×) |
| ② 主要部品交換は? | 耐用年数に影響→資本的支出 |
| ③ 機能追加の有無 | 現状維持なら修繕費OK |
キーワード:法令54条/耐用年数延長/改良・維持の判断
📑 第3章 交際費と会議費(第3回)
論点:「1人1万円以下」でも油断禁物
| チェック項目 | 要点 |
|---|---|
| ① 出席者は事業関係者のみか | 家族・友人含むと交際費扱い |
| ② 会議の議題・議事録を残したか | 実態説明の最重要資料 |
| ③ 飲食費+タクシー代で1万円超えないか | 付随費用含めて判定 |
キーワード:措法61の4/1人1万円基準/付随費用合算
📑 第4章 役員給与の定期同額性(第4回)
論点:形式要件の徹底が最優先
| チェック項目 | 要点 |
|---|---|
| ① 改定決議と支給時期は一致しているか | タイミングのずれは否認 |
| ② 期中に手当を追加していないか | 家族手当新設はアウト |
| ③ 福利厚生費との混同はないか | 社員全員対象なら福利厚生OK |
キーワード:法基通9-2-32/定期同額給与/手当追加
📑 第5章 役員退職金の損金算入(第5回)
論点:「支給時期」と「制度の実質」
| チェック項目 | 要点 |
|---|---|
| ① 実際に支払われた時点か | 未払計上は不可 |
| ② 制度廃止・打切支給の扱い | 「退職に準ずる」なら可 |
| ③ 退職後の追加支給 | 合理的理由があるかを文書化 |
キーワード:法基通9-2-35/打切支給/実質支給日
📑 第6章 貸倒損失の認定(第6回)
論点:回収不能の証拠主義
| チェック項目 | 要点 |
|---|---|
| ① 担保・保証の有無 | 処分確定までは損金不可 |
| ② 取引停止後の年数 | 「年数」ではなく「実質的取立不能」で判定 |
| ③ 否認時の対応 | 引当金への振替は不可、翌期で処理 |
キーワード:法基通9-6-1/客観的証拠/破産公告
📑 第7章 短期前払費用の誤解(第7回)
論点:1年以内でも契約実態が重要
| チェック項目 | 要点 |
|---|---|
| ① 手形払いか現金払いか | 手形は支払済扱いにならない |
| ② 契約期間1年以内か | 自動更新型は対象外 |
| ③ 継続契約・保険料 | 定期支出は前払費用(資産)で処理 |
キーワード:法基通2-2-14/支払済概念/反復契約否認
📑 第8章 加算税・延滞税・修正申告(第8回)
論点:処分の時期と自主修正の線引き
| チェック項目 | 要点 |
|---|---|
| ① 重加算税の根拠 | 仮装・隠ぺい・偽造書類があるか |
| ② 延滞税の起算日 | 通常:納期限、特例:通知日 |
| ③ 修正申告のタイミング | 指摘前の自主修正なら軽減対象 |
キーワード:国税通則法60条/68条/自主修正
🧭 総合チェックリスト(調査前の自己点検用)
| 分野 | チェックポイント |
|---|---|
| 経費・資産 | 消耗品・修繕費の判断に社内基準があるか |
| 交際費 | 会議議事録・出席者リストを保存しているか |
| 役員報酬 | 定期同額・決議書・支給日が一致しているか |
| 退職金 | 支給決議書と振込日が一致しているか |
| 貸倒 | 破産公告・登記簿・取引停止資料を保存しているか |
| 前払費用 | 契約書に「1年以内・単発契約」と明記されているか |
| 税務調査対応 | 修正申告・加算税・延滞税の取扱いを把握しているか |
📚 用語索引(実務キーワード50音順)
| 用語 | 出典・解説 |
|---|---|
| 【仮装・隠ぺい】 | 国税通則法68条。虚偽書類を用いる行為。 |
| 【会議費と交際費】 | 措法61の4。1人1万円基準に注意。 |
| 【加算税】 | 自主修正で軽減可、重加算税は35%。 |
| 【資本的支出】 | 法令54。耐用年数延長・機能向上は対象。 |
| 【修繕費】 | 現状維持目的なら損金算入可。 |
| 【定期同額給与】 | 法基通9-2-32。期中変更は否認。 |
| 【短期前払費用】 | 法基通2-2-14。契約実態が1年以内に限定。 |
| 【退職給与】 | 支給実績基準。未払計上は不可。 |
| 【貸倒損失】 | 回収不能の客観的証拠が必要。 |
| 【延滞税】 | 通常は納期限翌日、特例は通知翌日から計算。 |
💬 終章:税務調査で勝つ企業とは?
「調査官と戦う」のではなく、
「説明できる経理」=信頼される経理を目指すことが最善の防衛策です。
- 書面・契約・経理処理の三位一体管理
- グレーゾーンの段階で税理士に相談
- 社内で「税務調査対応マニュアル」を共有
これらを整備しておけば、調査は恐れるものではなく「経理品質の再確認の場」になります。
📘出典・参考資料
- 東京税理士協同組合 教育情報事業資料
『令和7年度 全国統一研修会 ~調査官の指摘 vs 会社の言い分~』 - 法基通2-2-14、9-2-32、9-2-35、9-6-1
- 国税通則法 第60条・68条
- 租税特別措置法61の4
✏️ 編集後記
全8回シリーズを通して感じたのは、
「税法の条文より、“なぜその処理をしたのか”を説明できるかどうか」が
実務で最も大切だということです。
経理担当者が「論理と証拠の整合性」を意識すれば、
どんな調査官にも堂々と説明できるはずです。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

