住宅価格の高騰が全国的に続くなか、国土交通省が残価設定型住宅ローンの普及を後押しする方針を示しました。これまで自動車やスマートフォン購入で一般化した「残価設定(残クレ)」という仕組みを住宅ローンにも取り入れる流れです。毎月の返済負担を抑えつつマイホーム取得を可能にするという狙いがありますが、その実態はどのようなものなのか。そして利用者は何に注意すべきなのか。本稿では制度のポイントと今後の展望を整理します。
残価設定型住宅ローンとは
売却を前提とした“新しい返済モデル”
残価設定型住宅ローンは、将来の売却を前提にあらかじめ「残価」を設定し、その金額を除いた部分のみを返済する仕組みです。残価部分には金利がかかりますが、返済元本には組み入れません。借り主が返済するのは残価を差し引いた額だけになるため、通常の住宅ローンよりも毎月の返済負担は小さくなります。
車の残価設定ローンでは一般的な仕組みですが、住宅では長期間にわたり価値が減少することが多いため、導入には慎重論もありました。それでも住宅価格が上昇し続ける現在、返済額を抑える選択肢としてニーズが高まっています。
国が普及を後押しする理由
金融機関の最大の不安「価値下落リスク」を補償
住宅ローンの残価設定が普及してこなかった背景には、金融機関側のリスクがありました。
数十年後の住宅の価値があらかじめ設定した残価を下回る可能性が高いという点です。
今回、住宅金融支援機構が新たに提供する保険は、まさにこの価値下落リスクをカバーする仕組みです。
- 将来の売却額が残価を下回った場合
→ 機構の保険が損失を補填する - 金融機関は残価設定型ローンを提供しやすくなる
- 住宅取得の選択肢として市場に浸透しやすくなる
国交省は補正予算案に約14.5億円を計上しており、2025年度内にも新ローン提供が始まる見込みとしています。
住宅価格の高騰が続く状況で「買いたいのに買えない」層を支える政策的意図が読み取れます。
利用者にとってのメリット
月々の返済が大幅に軽くなる
最大のメリットは、毎月の返済額が抑えられる点です。
残価分を返済対象から外せるため、初期負担が大きく減り、若年層や子育て世帯が住宅を取得しやすくなります。
また、以下のように複数の選択肢が確保されているのも特徴です。
- 死亡時や住み替えの際:住宅を売却して完済
- そのまま住み続けたい場合:残価分を支払って完済
- 残価と時価の差が大きい場合:自ら売却して返済し最適な残債調整が可能
柔軟性のある出口設計ができる点は、従来の住宅ローンにはない特性といえます。
注意点・リスク
「残価の妥当性」が最重要ポイント
もっとも大きい注意点は、設定される残価が本当に妥当なのかという点です。
- 想定より住宅価値が下落した場合、残価と売却額の差が利用者負担になる可能性がある
- 中古住宅の市場価格は地域差が大きく、価値評価の変動幅も大きい
- 長期的な維持管理やリフォームの計画も影響する
さらに、残価部分には金利がかかる点にも注意が必要です。
毎月の返済額が少ないことだけに注目すると、総返済額が割高になる可能性があります。
「返済額が軽くなる=得をする」とは限らない仕組みであることを押さえる必要があります。
普及により住宅市場はどう変わるか
住宅取得の裾野拡大と中古市場の活性化へ
残価設定型の普及は、以下のような変化を住宅市場にもたらす可能性があります。
- 若年層・子育て世帯の購入が増える
毎月負担が軽くなることで、購入のハードルが下がる。 - 中古住宅の流通が加速する
残価設定型は出口で「売却」を前提にするため、中古市場の流通量が増える。 - 立地・性能価値の“見える化”が進む
残価妥当性を確保するため、性能評価書やインスペクションの普及が進む可能性が高い。 - 住宅の資産価値の基準がより厳格に
将来価値をより定量的に評価する流れが強まり、立地・管理・耐震・省エネ性能など総合力が重視される。
「住宅は所有から利用へ」というトレンドの中で、金融の仕組みも変わりつつあることがわかります。
結論
残価設定型住宅ローンは、住宅価格が高止まりする時代において返済負担を抑えつつ購入を可能にする新しい金融ツールです。国が金融機関向けの保険を提供することで普及の後押しを始めたことは、今後の住宅取得行動にも一定の影響を与えるでしょう。
ただし、残価設定にはリスクもあり、将来の資産価値の見通しが不確実な住宅市場では慎重な判断が不可欠です。月々の返済が軽くなるメリットだけでなく、総返済額や出口戦略まで含めて比較検討することが望まれます。
参考
・日本経済新聞「残価設定型住宅ローン後押し 国が銀行向け保険提供」ほか各種報道
・国土交通省資料(住宅金融支援機構関連)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

