前回は、遺族年金と老齢年金の扱いの違いが、年金世代に強い不公平感を生んでいる点を整理しました。
今回はもう一歩踏み込み、働き続けた人ほど報われにくいと感じてしまう年金制度の構造を見ていきます。
多くの年金世代が抱く違和感は、「働くこと自体」が否定されているように感じる瞬間から生まれています。
働けば働くほど減る年金という感覚
年金世代の中には、60歳以降も働き続けている人が少なくありません。
健康面の理由だけでなく、生活費の補填や社会とのつながりを保つために働く人も多いでしょう。
しかし、一定以上の収入があると、年金が減額される仕組みが存在します。
いわゆる「在職老齢年金」です。
この制度は、働きながら年金を受け取る人と、そうでない人とのバランスを取るために設けられています。
制度としての理屈は理解できても、当事者の実感としては
「せっかく働いているのに、なぜ年金が減るのか」
という疑問が残ります。
手取りで見たときの違和感
問題は、名目上の収入ではなく、手取りで見たときの感覚です。
給与が増えた分だけ年金が減り、さらに税金や社会保険料がかかる。
結果として、働く時間を増やしても、生活が大きく楽になるとは限りません。
この構造は、
「これ以上働く意味があるのだろうか」
という迷いを生みます。
制度が「高齢期も働いてほしい」と言っている一方で、実際の仕組みは、その意欲をそいでしまっている側面があります。
繰下げ受給と見えにくい負担
年金の繰下げ受給も、制度不信を生みやすい論点です。
繰下げれば年金額は増えます。数字だけを見ると、とても合理的に見えます。
しかし、実際には
- 繰下げ期間中は年金を受け取れない
- 受給開始後は税金や社会保険料の対象額が増える
といった点を踏まえる必要があります。
結果として、
「増えた年金額ほど、手取りは増えていない」
と感じる人も少なくありません。
制度の説明は「増額」という言葉で終わりがちですが、生活実感まで含めた説明は十分とは言えません。
「頑張ってきた人ほど損をする」という感覚
年金世代が抱く制度不信の根底には、
「ルールを守り、長く働き、保険料を納めてきた人ほど、結果的に不利になるのではないか」
という感覚があります。
実際に制度が特定の人を罰しているわけではありません。
しかし、制度が複数重なった結果として、そう感じてしまう構造が存在しています。
この感覚が積み重なると、制度への信頼は静かに揺らいでいきます。
結論
働くこと自体が悪いわけではありません。
年金制度も、働く意欲を否定するために作られているわけではありません。
しかし、
- 働くと年金が減る
- 繰下げても手取りは思ったほど増えない
といった現実を前にすると、年金世代が戸惑いを覚えるのは自然なことです。
制度を持続させるためには、合理性だけでなく、生活実感に沿った納得感が欠かせません。
年金世代が「働いてきてよかった」と感じられる仕組みであるかどうかは、制度への信頼を左右する重要なポイントです。
次回は、ひとり暮らし高齢者が制度からこぼれ落ちやすい場面に焦点を当て、家族前提で作られてきた社会保障制度の限界を考えていきます。
参考
日本経済新聞
「多様性 私の視点〉遺族年金ばかり優遇、なぜ」
確定拠出年金アナリスト 大江加代氏(2026年1月26日朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
