「年収の壁」追加改革はどこへ向かうのか 所得税の非課税枠を巡る3つの改革案を整理する

FP

「年収の壁」をめぐる議論が再び加速しています。自民党と国民民主党が経済対策の協議に入り、非課税枠の引き上げや対象者の拡大など、複数の改革案が俎上に載っています。
本稿では、最新の政治状況と制度改正案を整理しながら、生活者の手取り収入や財政への影響をわかりやすく説明します。

1. 「年収の壁」とは何か

「年収の壁」とは、所得税がかかり始める年収水準のことを指します。
壁の金額は以下の2つを合計して決まります。

  • 基礎控除(全員対象)
  • 給与所得控除(会社員・パート・アルバイト対象)

壁が引き上がるということは、課税が始まるラインが高くなるため、実質的に減税となります。
働き方や世帯構成にかかわらず多くの人が影響を受けるため、政治的な注目度も高い論点です。


2. 3つの改革案の骨子

現在、議論されている追加改革は主に次の3案です。

(1)基礎控除を「物価連動」で引き上げる案(政府・与党案)

政府・与党は、基礎控除額を消費者物価指数(CPI)に連動させるべきだと主張しています。

  • CPIが3%上昇すれば、基礎控除も3%引き上げ
  • 数千億円規模の減収が生じる可能性
  • 国際的にも米国やフランスが採用している方式

1995年〜2023年でCPIは1.21倍となり、103万円→123万円への引き上げの基礎になりました。

物価上昇による実質的な負担増を抑える点では筋の通った提案ですが、財政への影響も避けられません。


(2)最低賃金に連動し「178万円」へ引き上げる案(国民民主案)

国民民主党が強く推すのが、最低賃金との連動です。

  • 最低賃金は1995年から1.73倍に上昇
  • それに合わせ「178万円にすべき」と主張
  • 一律で基礎控除を引き上げれば、数兆円規模の減収が発生

政治的なメッセージ性は強く、働く人の可処分所得を大きく押し上げる効果がありますが、財源確保の難易度は高いとみられます。

高市首相も当初は慎重姿勢でしたが、国民民主の要求を受け「互いに関所を乗り越える必要がある」と柔軟姿勢を示しつつあります。


(3)低所得者向けの非課税枠を「対象拡大」する案(国民民主内の追加案)

25年度税制改正では年収別に4段階の非課税枠が設けられています。

  • 最大枠「160万円」は年収200万円以下が対象
  • これを平均給与(約460万円)まで対象拡大すると、減収は約1000億円にとどまる試算

“ピンポイントの減税”として財源負担を抑えつつ、特に若年層や非正規労働者への支援を強める現実的な選択肢として注目されています。


3. 与野党協議の背景:税法成立には「協力政党」が必要

自民党・維新は単独では衆参どちらも過半数を持たず、税制改正法案や予算案の成立には国民民主などの協力が欠かせません。
そのため、「年収の壁」改革は政策論であると同時に、野党との政権運営上の取引材料という側面もあります。


4. 財源問題は先送りされたまま

ガソリン税の旧暫定税率廃止、高校無償化の議論など、他の大型減税とも重なる中、財源議論は十分に提示されていません。
税収の減少が積み上がれば、中長期的な財政運営や社会保障制度の持続可能性にも影響が及びます。

手取りを増やす施策は歓迎されやすい一方、将来世代への負担をどう調整するかは依然として大きな課題です。


結論

「年収の壁」をめぐる今回の追加改革は、単なる減税議論ではなく、物価高対策、所得支援、政権運営、財政健全化という複数の論点が絡み合っています。

  • 物価連動は妥当性が高い一方で財源負担も大きい
  • 最低賃金連動案はインパクトがあるが現実性の議論が必要
  • 対象者拡大案は比較的財源規模が小さく、実務的な折衷案になり得る

最終的にどの案を軸に調整が進むかは、与野党の交渉状況と財政状況を踏まえて年末にかけて明らかになってくる見通しです。
生活者としては、予定される制度変更が手取り収入や働き方に与える影響を冷静に見極めることが重要です。

出典

・日本経済新聞「『年収の壁』追加改革3案」
・政府・与党資料(基礎控除・給与所得控除の制度概要)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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