「年収の壁」見直しはどうなる? ― 最低賃金との連動に慎重な政府方針

政策

パートやアルバイトなどの就労調整の原因となっている「年収の壁」問題。
高市早苗首相は11月10日の衆院予算委員会で、所得税の非課税枠を最低賃金に連動して引き上げる案に対し、慎重な姿勢を示しました。
与野党で議論が進むなか、どの指標をもとに壁を引き上げるのかが、今後の大きな焦点となりそうです。


「年収の壁」とは ― 複数の制度が絡む構造

「年収の壁」とは、一定の年収を超えると税金や社会保険料の負担が発生し、手取りがかえって減る仕組みを指します。
現在、所得税・住民税・社会保険など複数の「壁」が存在し、代表的なものとして以下の段階があります。

  • 103万円の壁:所得税が課税される基準
  • 106万円の壁:社会保険加入義務が生じる基準(一定規模以上の企業)
  • 130万円の壁:配偶者の扶養から外れる基準
  • 150万円/160万円の壁:配偶者特別控除・非課税枠の適用限界

とりわけ年収160万円の非課税枠は、所得税負担をなくす効果が大きい一方で、現在の対象者は「年収200万円以下」に限られています。実際にこの恩恵を受けている人は納税者全体の5%程度にとどまるとされます。


政府と与野党の主張 ― 最低賃金連動に慎重姿勢

国民民主党は、最低賃金引き上げに合わせて年収の壁を178万円へ引き上げる案を提案しています。加えて、非課税枠160万円の対象範囲を拡大することで、より多くの働く人が恩恵を受けられるようにする考えです。

一方で高市首相は、最低賃金との連動には否定的な見解を示しました。
首相は「最低賃金は給与所得者の一部にしか適用されない。連動して調整することは適切でない」と述べ、単純な紐づけによる制度改正には慎重姿勢を崩していません。
財源の制約や、所得再分配の公平性への配慮が背景にあるとみられます。


政策協議の行方 ― 税制改正と経済対策の交錯

自民党、日本維新の会、国民民主党、公明党の4党は、2026年度税制改正に向けて「年収の壁」引き上げの協議を進める方針です。
11日には自民・維新がそれぞれ経済対策案を首相に提言し、年収の壁の見直しをその一部に盛り込む見通しとなりました。
ただし、対象拡大には追加の財源が不可欠であり、財政負担への懸念から自民党内では慎重論が根強く残っています。

同時に、ガソリン減税をはじめとする経済対策の調整も進んでおり、25年度補正予算案を成立させるためには、野党の協力が欠かせません。
国民民主党の玉木雄一郎代表は「補正予算への賛成に向けた条件は整いつつある」と述べ、年収の壁見直しを交渉材料の一つとして位置づけています。


今後の焦点 ― 「働き損」をどう解消するか

政府・与野党ともに「働く意欲をそがない仕組み」づくりを掲げていますが、アプローチには差があります。
税制だけで解決するには限界があり、社会保険制度や雇用慣行、労働時間管理などの見直しを含めた包括的な改革が求められます。

最低賃金の上昇が続く中で、現行の壁を放置すれば「手取り減少」を避けるために労働時間を制限する動きが強まり、労働供給の減少につながる懸念もあります。
制度の複雑さを整理しつつ、働き方に中立的な税・社会保障体系をどう再設計できるかが今後の課題です。


結論

「年収の壁」問題は、単なる税の問題ではなく、少子化対策・労働市場改革・賃上げ政策と密接に関係しています。
政府が慎重姿勢を示す一方で、野党や経済界は「現場の働き方」との乖離を指摘しています。
働く人が損をしない制度に改めるためには、政治的な駆け引きではなく、生活者の立場に立った制度設計が必要です。


出典
日本経済新聞「首相、『年収の壁』最賃連動の上げに慎重」(2025年11月11日付)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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