国民民主党が再び「年収の壁」の見直しを政府に提言しました。178万円への引き上げや年少扶養控除の復活など、家計支援と経済活性化を両立させる政策を打ち出しています。高市政権との政策的親和性を強調しつつも、独自色の発揮に苦慮する姿も浮かび上がります。今回の動きを、税制・財政・政治の三つの視点から整理します。
1. 「年収の壁178万円」構想の再燃
国民民主党の玉木雄一郎代表は、高市早苗首相に対し「最低賃金に連動して178万円を目指して引き上げるべきだ」と直接提案しました。いわゆる「年収の壁」とは、所得税や社会保険料の非課税枠を超えると手取りが減る現象を指し、特にパートや主婦層に影響が大きい制度的な課題です。
現行では、税制上の基礎控除や配偶者控除などの枠組みが複雑に絡み合い、「働き損」を感じる層が広がっています。国民民主党はこの是正を最優先課題とし、最低賃金上昇とのバランスを踏まえた段階的引き上げを主張しています。
一方、高市首相は「最低賃金に連動して調整するのは適切でない」と答弁し、物価上昇など他の経済指標も踏まえた柔軟な判断を示しています。両者の方向性は一致しているものの、調整メカニズムの設計には温度差が見られます。
2. 税制改革のもう一つの柱 ― 年少扶養控除の復活
国民民主党は、子育て世帯の税負担を軽減するために「年少扶養控除の復活」を提案しました。これは2011年度の税制改正で廃止された制度で、16歳未満の子どもに対する所得控除を認める仕組みでした。
同党は、少子化対策の観点から「教育費負担の増大に対応するには、現金給付だけでなく税制による支援が不可欠」と訴えています。高市政権も子育て・教育関連の支援を重視しており、今後の税制改正論議の中で一定の議題となる可能性があります。
3. 「積極財政」路線での接点
国民民主党は「責任ある積極財政」を掲げ、国と地方を合わせた基礎的財政収支(PB)の黒字化目標を柔軟に見直すよう求めています。高市政権も、単年度の均衡ではなく複数年度での調整を重視する立場であり、財政運営の方向性では両者に親和性があります。
提言には、2035年までに名目GDPを1000兆円に拡大するという大胆な目標も掲げられました。その実現策として、設備投資額を上回る償却を認める「ハイパー償却税制」や、初年度全額を損金算入できる「即時償却」の導入が含まれています。これらは企業の投資意欲を高め、国内生産の再活性化を狙うものです。
実際、高市首相も衆院予算委員会で「即時償却の導入を検討する」と明言しており、国民民主党の政策が政府方針として形を得つつある状況です。
4. 独自性と存在感のジレンマ
国民民主党が提唱してきた政策が次々と政府に取り込まれる一方で、党としての存在感が薄れる懸念も指摘されています。
ガソリン税の旧暫定税率廃止も、同党が長年主張してきた政策の一つですが、最終的には与野党6党の合意として実現しました。党内からは「うちのまねばかり」との不満も聞かれ、次の「看板政策」を模索する動きが出ています。
支持率も10月の世論調査で6%に低下しており、今後は年収の壁や税制改革に続く新たな提案力が問われます。
結論
国民民主党の最新提言は、高市政権との政策的一致点を多く含み、現実的な実現可能性を持つ内容です。一方で、党独自の経済ビジョンをどう際立たせるかが次の課題です。
「積極財政」を共有する政権との協調か、あるいは差別化による存在感の確立か――。税制・社会保障・財政運営が重層的に絡む中で、政策立案政党としての力量が問われています。
出典
日本経済新聞「国民、年収の壁178万円を再要求 首相に経済対策提言」(2025年11月13日付)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

